印象的な思い出に挙げた2014年の“10.2”
12年前に本拠地を包んだ歓喜は、今も記憶に深く刻まれていた。盟友の姿に思い出すのは2014年のリーグ優勝。そして、その舞台裏だ。
今季限りでの現役引退を決意した中村晃内野手。盟友たちは、何を思ったのか。柳田悠岐外野手が「寮の時からたくさん一緒にいたので、寂しい気持ちが強いです」と語れば、今宮健太内野手も「僕が20代なら『え、もう辞めるんですか晃さん』と言っていると思うんですけど、年齢も同世代。いろんな事情や苦しいことは、なんとなく頭にありました」。背番号7の決断を“察していた”ことを明かした。
中村晃が初めて規定打席に到達したのは6年目の2013年。以降、6度のリーグ優勝を経験したが、もっとも印象的なシーンに挙げたのが2014年に味わった歓喜の瞬間だった。
「レギュラーとして試合に出られるようになって、最後は松田(宣浩)さんがサヨナラヒットを打って優勝できた。その形も劇的でしたし、(優勝の経験が)初めてというのもあって、すごく印象に残っています」
10月2日、ホークスにとってはリーグ最終戦だった。敗れれば優勝が限りなく遠のくという状況の中、松田氏の左中間を破るサヨナラ打で試合を決めた。サヨナラのホームを踏んだのが、まだ背番号が「44」だった柳田。今宮も含めた3人はこの一戦でスタメン出場しており、初めて味わう優勝だった。その前日に交わした会話。緊張のあまり、味すらしなかった食事――。今も鮮やかに残る記憶とは。
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この先で分かる3つのこと
柳田悠岐と中村晃が過ごした「10.2」決戦前夜
今宮健太の脳裏に一生焼き付く決戦の朝
今宮が称える中村晃が繋いだ「ホークスの伝統」
■決戦前夜、柳田悠岐と中村晃が交わした言葉
「たかが1日なんですけど、僕も鮮明に覚えています。同じマンションに住んでいたので、よく食事も2人で行ったのを覚えてますし、野球の話をしながら、次の日のオリックス戦に行きました。自分もすごい記憶に残る1日ですね」
柳田が振り返った“決戦前夜”――。同じマンションに住んでいた中村晃と食事に出かけた。場所は福岡市内の飲食店「平(たいら)」。中村晃が「緊張感もありました。食事には集中していなかったですね。喉を通らない、あの感じです」と振り返れば、柳田も「何を食べたかもう覚えていないんですけど、話した内容とかは覚えてます。10年以上前ですけど、自分も一番印象に残っている一日かもしれないですね」という。
今となってはチームリーダーとして後輩を引っ張っている2人だが、当時はまだまだ若手。“勝てば優勝”という極限の状況で、食事の味がしないほどの緊張感を経験したのは大切な思い出だ。
ファンにとっても記憶に刻まれている歓喜の“10.2”。今宮も「晃さん、柳田さんも含めて、僕たち3人は一致すると思いますよ。あれはなかなかできない経験です」と振り返る。決戦の朝、みずほPayPayドームに到着し、駐車場から歩を進めていく。20代前半だった背番号6は、言葉にできないほどの緊張感と戦っていた。
「開幕戦だと(試合に)入って緊張が出てくるんですけど、朝から緊張したのはあの日くらいです。2人が『味を覚えていない』と言っていましたけど、僕にとっても本当にそのレベル。この通路を歩く時に緊張なんて滅多にしないんですけど、あの日だけは一生忘れることはないと思いますね。仮に僕が(印象深い思い出を)聞かれたとしてもその時と言いますし、ギーさんもそう言うと思いますよ」
中村晃が体現したホークスの伝統「一番やってくれた」
19年目を迎えた今シーズン、中村晃は23試合に出場して打率.129と苦しみ、6月9日に登録を抹消された。その前日、柳田と今宮には現役引退の意思を報告していた。
柳田は「決めるのが早くてびっくりしました。でも本人が悔いなく決めたこと。本当に『お疲れ様でした』という気持ちです」と率直な思いを明かす。それでも、中村晃はシーズンの戦いを全うするつもりでいるだけに、まだまだ一緒に戦うチャンスは残されている。「晃が状態を上げて、1軍の試合に出ることもあると思う。残り少ない打席だと思うので、お互いに噛み締めてやりたいなと思います」。柳田は続けて語った。
今宮にとって、中村晃は2歳年上。引退をどのように受け止めたのか、と問われると「難しいですね……」と、はじめは言葉が出てこなかった。柳田とともに、誰よりも早く知らされたその意味を深く受け取っていた。
「本多(雄一)コーチ、松田(宣浩)さん、内川(聖一)さん、長谷川(勇也)さん……。その代がいなくなった時に、じゃあ誰がこのチームを(引っ張るか)となれば、当時で言えば柳田さん、晃さん、その次が僕というところだったので。なんとか後輩にいいものを引き継いでもらえるようにすごく意識してやってきましたし、そこを一番にやってくれた人が晃さんなのかなと思います」
同じ時代を生き、ともに歓喜を味わってきたからこそ、照れもなく「特別な存在」だと言い切ることができる。中村晃にとって“ラストシーズン”となる2026年。もう1度、みんなで優勝を掴みたい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)2026.07.04