満塁弾を放ったこの日…中村晃がミーティングで語ったこと
たくさんの後輩が、自分の背中を見ている。迷うことなく初球を振り抜けたのは、今も妥協なき準備を続けているからだ。28日に行われたファーム・リーグのオイシックス戦(タマスタ筑後)。6-5で勝利を収め、西地区首位に再浮上した一戦で、「逆転サヨナラ満塁本塁打」を放ったのが中村晃内野手だった。
「どこで打っても、ホームランはいいものだなと思いました。また頑張ります。ありがとうございました」
3点を追いかける9回。2安打と四球で無死満塁の絶好機を迎えると、打席に立ったのは7回から途中出場していた背番号7だった。右腕・上村が投じた147キロ直球を捉えると、打球はライナーで右翼ネットを揺らした。タマスタ筑後でのヒーローインタビューで、ベテランがマイクを握るのは異例のこと。「何も考えずに。みんなで作ったチャンスだったので、思い切って行きました」。2軍という舞台ではあるが、36歳も興奮した表情で劇的な一打を振り返った。
9日に登録を抹消され、翌日から2軍に合流した。若手と日々を過ごす中で、中村晃は試合前のミーティングにも参加している。主力選手の参加は免除されているが、「いろんな意見があって、面白いからですよ」。ベテラン自ら歩み寄り、溶け込もうとするのは並大抵のことではない。そして背番号7は満塁弾を放ったこの日、後輩たちに向けて「発言」をしていた。見逃せなかった小さな隙。「1軍なら、あれはすぐに2軍行きになる」――。
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この先で分かる3つのこと
試合前のミーティング…中村晃が「発言」した舞台裏
「1軍ならすぐに2軍行き」大敗翌日に指摘した若鷹の隙
斉藤和巳監督も感嘆…ベテランが示すお手本「ありがたい」
27日の9回…藤田悠太郎が見せた小さな隙
2軍では、試合内容を振り返るためのミーティングは「翌日」に行なわれる。ゲームセット直後よりも、時間を置いた方が冷静に振り返ることができるという斉藤和巳2軍監督の提案で、今年からの変更点だ。投手、捕手、内野手、外野手に分かれて前日の映像に目を凝らす。その後は「バッテリー」と「内外野」がコミュニケーションを取り、全体練習に入っていくのがルーティンだ。
実績のある選手なら、試合に備えるための「ルーティン」は確立されている。首脳陣もミーティングへの参加は一任しているが、背番号7が自ら発言したのがこの日の出来事だった。1軍基準のプレーを知っているからこそ、“2軍降格”がすぐさま脳裏をよぎるほどのプレー。見逃せなかった隙とはどんなものだったのか。
「あれがもしアウトになっていたら、1軍ならすぐに2軍行きになる。損をするのは自分なので。点差が開いたからといって、隙は見せないように。走塁に“調子”はない。他人事じゃなく、自分に置き換えて考えていきましょう」
指摘したのは、27日の同戦。3失策に加えて記録に残らないミスも重なり、10失点の大敗を喫した。36歳のベテランが言及したのは、9回2死一、二塁で打席に山本恵大外野手を迎えたシーンだ。初球を空振りすると、捕手が二塁に牽制球を投じた。これに二走の藤田悠太郎捕手はスライディングせずに帰塁。セーフにはなったが際どいタイミングで、仮にアウトになっていればゲームセットという状況だった。
大敗から一夜が明け、藤田自身も切り替えてはいたが「守備のミスと、自分の走塁ミスもあったので。そういうのもあって試合後は、複雑なところはありました」と反省を口にしていた。点差や状況に、自分のプレーが左右されてはいけない。どんな時でも全力プレーを貫くのが、ホークスの野球だと伝えたかった。ミーティングでの発言から約7時間後に放ったサヨナラ満塁弾。言動だけではなく、見事に結果でも示してみせた。
斉藤和巳監督も感嘆「なかなかできることではない」
自分の調整に集中しつつも、若鷹と足並みを揃える。そんな姿には、斉藤監督も唸るしかない。
「基本的に、実績のある選手には『出てくれ』とも『出るな』とも言っていないし、実際に大関(友久)や山川(穂高)、徐若熙も2軍にいた時は出ていなかった。それを否定するというのは全くないけど、実績組がいてくれるとありがたいよね。晃は、特別扱いをしてほしくないというか、それが好きなわけでもないんじゃないかな。2軍にいるから2軍のルールに従うというのも、なかなかできることではないよね」
試合前のミーティングには東浜巨投手、柳町達外野手らも参加していたという。「1軍で必要とされる選手は、それだけやるべきことをちゃんとやっている。いい姿、いいお手本よね」と指揮官も続けた。先輩から後輩へ――。受け継がれていくホークスの野球を、まだまだグラウンド上で体現していくつもりだ。
レギュラーシーズンでサヨナラ打の経験はあるが、グランドスラムで決着をつけた36歳は「まさかでしょう」と笑った。2軍で汗を流す日々でも、自分の一打でチームメートとファンが、こんなにも喜んでくれた。中村晃は、愛されている――。その理由がぎゅっと詰まった渾身の一振りだった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)