“首振りまくり”の先に掴んだ完封劇
ベンチで醸し出す2人の空気は想像以上にヒリヒリとしていた。19日にマツダスタジアムで行われたファーム・リーグ広島戦。先発マウンドに上がった岩崎峻典投手は見事な完封勝利を収めたが、その舞台裏ではバッテリーを組んだ藤田悠太郎捕手と、毎イニングのように激しい意見をぶつけ合っていた。
「まぁ……。ケンカにもなりますよね」
ファームだからこそ、現状に甘んじることなく、互いのプライドと根拠をぶつけ合う2人。その姿には、確かな熱量が宿る。イニングを終えてベンチに戻ろうとする岩崎は、藤田に向かって厳しいジェスチャーを交えて主張をぶつけた。一方で、マスクを被る21歳も黙ってはいない。「僕はこう思ったから、要求したんです」と自らの配球の意図を食い下がるように説明する。
見かねた小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)や高谷裕亮2軍バッテリーコーチが間に入り、双方の意見を整理しなければならないほどだった。なぜ完封ペースで相手打線を抑え込みながらも、毎イニングぶつかり合ったのか――。その根底には、バッテリーとしての理想像を追い求める、若き2人の思いが隠されていた。
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この先で分かる3つのこと
・藤田のサインに岩崎が首を振り続けた「本当の理由」
・衝突する2人を完封へと導いた、コーチの「一言」
・去年まであった「2人の壁」を打ち破った、ある変化
妥協を許さない右腕の姿勢
「自分が思った球というか、しっくりくる球じゃないと投げたくないので。そういうのは言っていますね。僕は自分の調子とバッターの反応を見て『これが投げたい』と言っているんですけど、藤田は前の試合や、これまでのデータを持ってサインを出してくれていると思うんです。だけど、僕がめっちゃ首を振るので、ケンカになりますよね」
岩崎は包み隠すことなくこう明かす。過去のデータから最適解を導き出そうとする藤田に対し、岩崎はマウンドで感じた自身の調子と打者の反応を最優先する。意見が食い違うのも当然だ。「僕は試合では言ってしまいます。正直言って、配球に答えはないと思うので。話し合っていくことが大事だと思うんです」。マウンドに立つからには妥協を許さない右腕の姿勢が垣間見える。
そんなピッチャー気質全開の振る舞いにも、藤田は決して不快感を抱いていなかった。「もうずっと首振りでしたし、ベンチに戻る時も、戻ってからも意見のぶつけ合いでした。だけど、それが悪いとは思わないです。根拠を持って投げたいんだと思うので、岩崎さんに関してはそれが正解なんだと思います」。こう語る藤田の表情は、先輩の思いを深く理解しているようだった。
どれだけ言い合おうとも、2人が大切にしたものがある。それは「互いにモヤモヤした気持ちを持ったまま打者に向かわない」ということだ。“仲裁”に入ったコーチ陣から「中途半端で行ったら絶対打たれるから、納得してからいけ」と、試合中に1度だけ助言があり、互いの意見を整理させた。岩崎が「絶対あそこには投げたくない」と言えば、藤田は「じゃあここに構えるんで、そこはボールでいいんで」と新たな意図を提示した。ケンカのまま終わらせず、2人が納得した状態で打者に向かっていけたことが完封劇につながった。「藤田のおかげです」――。
昨年まであった2人の壁…「難しかった」
そんな2人だが、昨年まではどこか探り合うような壁があったという。「去年は岩崎さんに対しての、話し方とか接し方が難しかったんです。でも、岩崎さんの方から歩み寄ってくれたりとか、僕のことをいじってくれたりとかするようになって、普段からこういうことも言えるようになりました。だからお互いにぶつけ合えるというか。コミュニケーションが大事なのかなって思っています」と明かす21歳。
これには岩崎も「自己中なんですけど、去年とかは『俺の考えで投げる』みたいな感じが強かったんで、会話も今ほどなかったです。でも、今は普段でも仲良くなっているし、会話も増えているんで、いい方向に行ってると思います。今は、藤田だから言えますね」と素直な思いを語る。遠慮なく自己主張する投手と、その熱量を受け止めながら論理で導く捕手。魅力的な関係性がそこにはある。
ファームで繰り広げられた本気の“ぶつかり合い”。幾度も首を振り、言葉をぶつけ合って並べた9つの「0」は、2人にとって何よりの自信となったはずだ。日本一に輝いた昨季は、杉山一樹投手と海野隆司捕手も本気で意見を交わし合っていた。妥協と衝突を恐れない気持ちは、どこにいても変わらない。熱い気持ちのままに、1軍の舞台を目指す。
(飯田航平 / Kohei Iida)