首位攻防戦の裏側…斉藤和巳監督が「信念」を貫いた”2つの采配” 育成右腕が1年以上守り続ける助言

  • 記者:竹村岳
    2026.06.19
  • 2軍
オリックス戦に勝利しガッツポーズする斉藤和巳2軍監督【写真:栗木一考】
オリックス戦に勝利しガッツポーズする斉藤和巳2軍監督【写真:栗木一考】

6回2死満塁…押し出し四球を与えても「小林・続投」

 渾身の112球目は外角低めに外れた。押し出し四球となり、リードは2点差に。なお2死満塁のピンチ。ベンチの指揮官に目線を移すと、立ち上がることなく、前のめりな姿勢のままグラウンドを見つめていた。接戦を制した18日のファーム・リーグオリックス戦(タマスタ筑後)。西地区の首位に浮上したこの一戦で、斉藤和巳2軍監督の采配に「信念」が見えたシーンが、2度あった。

 勝利よりも育成を重視する2軍。指揮官も常々「選手が成長するなら、負けから何かを得るかもしれないから」と話してきた。シーズンが開幕してこの日が63試合目。まだまだ先も長くとも、勝てば首位に立つという状況で斉藤監督がどんなタクトを振るうのか。その一点だけに注目して、戦況を見守った。

 通算79勝を挙げ、2度の沢村賞に輝いた現役時代。“負けないエース”と呼ばれた斉藤監督の「信念」は、やはり継投に現れていた。

 先発は5月からホークスに入団した小林樹斗投手。打線は2回までに4点を奪い、右腕も5回を終えて無失点とリズムに乗っていた。試練が訪れたのは6回。失策も絡んで1点を失うと、なお2死満塁から押し出し四球を与えた。球数は「112」。試合を左右する重要な場面だったが、ベンチは動くことなく小林に託し続けた。指揮官が示した“不動”の采配。選手が成長するためのチャンスを「奪わなかった」――。

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この先で分かる3つのこと

斉藤和巳監督の信念が見えた2度の「続投」
広島から構想外通告も…小林が見せた粘りの一球
相原雄太が1年以上も守り続けている指揮官の言葉

斉藤和巳監督が強調した「機会」という言葉

「いつも言うように、代えるのは簡単。1軍ならとうに代えられていると思うけど、ここはそういう場じゃない。どう(ピンチを)しのぐかということ。イニングを投げることでいろんなピッチングを覚えることもできる。そういうのは2軍以下でしかできないので。機会は自分たちが与えないとね。(試合中じゃないと)作れないので」

 例え打たれたとしても、それは選手にとって先につながる悔しさとなる。貴重な経験を積んでもらうために、最大のピンチでもマウンドを託し続けた。動かなかった采配にこそ、選手の成長を最優先する斉藤監督の思いが現れていた。

 押し出し四球の後、集中力を入れ直した小林。後続を斬り3点目を与えなかった姿に、指揮官なりの表現で目を細める。

「交代と言われるまで投げるのが投手なので。自分で決めつけることなんて、あってはならない。あそこで落ち込んでいる暇もないし、展開的にはまだ勝っていたから。自分で招いたピンチ、自分で出したランナー。自分のケツは自分で拭くというくらいの気持ちでマウンドに上がってもらわないと困るので」

 小林自身も、6回のピンチを振り返る。2025年オフに広島から構想外通告を受け、1度はNPBの舞台から姿を消すことになった。もう苦い思いを味わうつもりはない。「今までの経験も踏まえて、あそこで気持ちが切れると次のバッターもずるずるといってしまう。そういう意味では割り切って、向かっていけたのかなと思います」。試合後に受け取った“ウイニングボール”を見つめ、少しだけ誇らしげにそう語った。

試合を締めくくり雄叫びを上げた相原雄太【写真:栗木一考】
試合を締めくくり雄叫びを上げた相原雄太【写真:栗木一考】

2年目右腕の相原雄太が1年以上も信じてきた助言

 試合の終盤、もう1つの“見どころ”が訪れた。8回から登板したのは大卒2年目の相原雄太投手。結果的には2イニングを無失点に抑え、2軍戦初セーブを挙げた。

 相原の課題は、右バッターに対してボールが抜けてしまうこと。8回は3人の左打者を退けたが、9回は先頭から右打者が3人続く。それをはっきりと理解しながら、斉藤監督は最後のマウンドを任せた。

「8回のピッチングを見て、小笠原(孝)投手コーチと『9回もいきましょう』と。小笠原コーチが『いい感じに強い球を投げていますね』と言っていたんですけど、『いやいや、次は右なので。ここからですよ』という話はしていた。案の定、ちょっと抜けたりとか。相原に関しては3軍から見てきている。だけど、それも(小林と)同じ。機会を与えてやらないと克服できないし、課題と向き合わせることもできないので」

 3軍時代から制球力が課題だった。転機となったのは昨年5月の韓国遠征。相原が自らの現状に対して葛藤を抱いていたところ、指揮官から「相原」と声をかけられたという。「力を伝える方向が広がっている。『ベース板に真っすぐ向かっていくような体の使い方をしなさい』と言われました。地道にやってきたことが、やっと定着してきたかなと言う感じです」。斉藤監督の助言を1年以上も信じ続け、コツコツと取り組んできたことが実を結んでいる。今シーズン、2軍で挙げた勝利もセーブも決して偶然ではない。

 相原のラストボールは、145キロの直球。空振り三振に仕留めて、雄叫びを上げた。「あれがボールになっても、次の球で勝負できる自信があった。余裕もあったし、練習してきた球を投げられました」。見応えたっぷりの首位攻防戦だった。斉藤監督は表情を緩めることなく「いつも言うように、選手の成長が一番。明日もそれだけで行きますよ」と語った。選手を信じ、機会を与え続ける――。唯一の信念は、絶対に揺るがない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)

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