松本裕樹が繰り返していたトライアンドエラー
人知れず、感覚の変化と戦ってきた。今季、松本裕樹投手が感じていたものは、最優秀中継ぎ投手賞を獲得した昨年との「ズレ」だった――。3・4月は8試合に登板して防御率4.50と、本来の姿からは程遠い状態が続いていた。だが、5月に入ると9試合で防御率2.00と持ち直し、6月に至っては6試合連続無失点。右腕が本来の輝きを取り戻している。苦しんだ開幕直後から、一体どのような変化があったのか。その舞台裏には、首脳陣の深い信頼と、右腕の執念に満ちた試行錯誤があった。
11日、みずほPayPayドームで行われた阪神戦。8回のマウンドに上がった松本裕は、2者連続三振を含む三者凡退という完璧な内容で相手打線をねじ伏せた。前夜も走者を背負いながら無失点で切り抜けており、その安定感が際立ってきた。
しかし、この日の完璧な1イニングへとたどり着くまでの道のりは、決して平坦ではなかった。「思うような結果が出てないところはあった」。背番号66が明かしたのは、知られざる苦悩。春先、松本裕はマウンド上で「明らかな違和感」と戦っていた。
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この先で分かる3つのこと
松本裕樹を悩ませた、昨年と同じ感覚の中で生じた変化とは
首脳陣が「ああしろこうしろと言えない」と明かす本音
松本裕が「防御率も下がってくる」と確信する、求めるもの
「自分の中では去年と同じような感覚で投げていても、ちょっと変化があったりとか……。球種の精度だったりは、色々と試行錯誤しながらという感じです」
開幕直後の状態を静かに明かした表情には、どこかもどかしさがにじんでいた。大崩れこそしないものの、本来の力を出し切ることができない。そんな右腕の苦悩を、首脳陣はただじっと見守っていた。
倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)は、当時のアプローチをこう振り返る。
「僕がこうした方がいい、とか言うわけではなくて、本人のなかで色々と試しているものがある。もっと良くなるために取り組んでいることがあったので。あれくらいの選手に『ああしろこうしろ』とは僕らは言わないし、言えない。基本的には本人の感覚が大事だと思うんで」
首脳陣は、実績ある松本裕の経験と感覚を信じ、困った時にいつでも手を差し伸べる準備だけをして、“その時”を待っていた。
「トライアンドエラー」の果てに掴んだ確かな手応え
首脳陣の絶対的な信頼を感じながら、右腕は日々の練習から状態を上向かせる作業に没頭した。何か劇的な特効薬があるわけではない。ただ一球一球の感覚を研ぎ澄まし、修正を繰り返す日々だった。「色んなものの感覚を確認しながら、試行錯誤しています。トライアンドエラーを繰り返している状態です」。言葉を選びながら語る表情には、地道な作業に注ぎ込んだ”執念”がにじんでいた。
季節の移り変わりとともに、積み重ねてきたことが徐々に表現できるようになってきた。マウンドでの佇まいにも本来の躍動感が戻ってきた。それを証明したのが、11日の完璧なマウンドだった。
「真っすぐに関しての出力だったりは、今はだいぶいい状態にはきているかなと思います」。その言葉通り、阪神打線を圧倒した。
「三振が取れれば、数字もついてくるかなと思うので。そこを求めていけば、防御率も下がってくるでしょうし。そこは大きいですね」
見据えるのはさらなる高み。そこにはセットアッパーとしての強い誇りがある。ロベルト・オスナ投手、杉山一樹投手らの復調も重なり、盤石な状態が整った。自らの力で「感覚のズレ」を軌道修正し、再びマウンドで躍動する松本裕樹。その姿がチームの未来を明るく照らし出している。
(飯田航平 / Kohei Iida)