オスナにも聞こえた”叫び” リプレー検証、敵将退場に怒号…川瀬晃も明かした異様な空気「流れは怖い」

  • 記者:竹村岳
    2026.06.11
  • 1軍
海野隆司を指差すロベルト・オスナ【写真:栗木一考】
海野隆司を指差すロベルト・オスナ【写真:栗木一考】

7回1死一塁で二盗を阻止…口にした海野隆司への感謝

 本拠地を包みこむ、異様な雰囲気。グラウンドに立っていた選手ですら「流れは怖い」と感じていた。敵将がベンチを去り、左翼席からは怒号が飛ぶ。マウンドにいたロベルト・オスナ投手は、何を思っていたのか――。繰り返したのは「仕事」という言葉だった。

“7回の男”として定着してきた背番号54。10日に行われた阪神戦(みずほPayPayドーム)は、1点リードで出番がやってきた。1死から熊谷にヒットを許し、打席に立石を迎えた場面。4球目に一走・熊谷が二盗を狙いスタートを切ると、きわどいタイミングはアウトと判定された。すぐさま阪神ベンチがリクエストを要求。試合の展開を大きく左右しかねない、重要なリプレー検証が始まった。

 5分もの検証が行われた結果、判定は覆らずアウトとなった。直後にベンチを飛び出した阪神の藤川球児監督は「異議を申し立てた」とし、退場処分を受けた。左翼スタンドに陣取った阪神ファンから起きた大ブーイング。ファーストジャッジからリプレー検証を挟み、右腕が試合再開後の一球を投じるまでにあった6分36秒の“中断”。球場のどよめきが消えない中で、オスナの集中力は研ぎ澄まされていた。

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この先で分かる3つのこと

球場を包んだ異様な雰囲気に感じたこと
川瀬晃ですら感じた「流れの怖さ」とは
15試合連続無失点…好調も「気にしない」

「誰かが叫んでいることはわかっていた」

「1点リードの7回。とても大切なところで、僕はマウンドに送り出されている。基本的に自分の仕事にフォーカスしているので、球場の空気とかを気にすることはなかったです。誰かが叫んでいたのはわかっていたし、聞こえてもいた。確かに(異様な)雰囲気ではあったと思うけど、海野(隆司)がアウトにしてくれて、まずはホッとした。もう1つのアウトをどう取るか、それしかもう考えていなかったです。スタンドの声も、日本語だと何を言っているかわからないですから(笑)」

 球場を包んだ異様な空気感に、二塁手としてグラウンドに立っていた川瀬晃内野手も驚きを隠さなかった。「阪神ファンの方々の熱い応援はすごかったですし、あんなに長いリプレー検証は初めてだったので。確かに異様な雰囲気だったと思います。『もしセーフだったら……』と思うと嫌な場面でしたし、改めて流れは怖いなと思いました」。経験豊富な28歳ですらそう感じた、この一戦の分岐点だった。

 オスナが冷静でいられたのは、もちろん明確な理由がある。それは百戦錬磨の右腕が抱く、プロとしての矜持でもあった。「自分の仕事は早くアウトを取って、野手の皆さんを休ませること。僕の仲間たちは3時間以上もグラウンドに立ってプレーしているので」。1イニングという限られた役割に、全力を尽くす。厳しい状況であっても、その目的を見失うことは絶対にない。はっきりとした口調でこう続けた。

「アメリカ時代も含めれば6万人、6万5000人の前で投げたことはある。こういう(異様な)空気の経験は確かにあるけど、自分が投げている時に監督が退場するというのは初めてでした。だけど、それは自分には関係のないこと。集中力を途切れさせてはいけない。だって僕が果たさないといけない仕事は、軽い気持ちでできることではないので。リプレー検証の結果を見て、すぐ次のバッターだと切り替えていました」

 メジャーリーグ時代も含めて、数々の修羅場を乗り越えてきた。「緊張? したことがないからわからないね」。さらりと言ってのける強心臓が、存分に発揮された場面だった。

7回を無失点に抑えベンチで海野隆司とハイタッチするロベルト・オスナ【写真:栗木一考】
7回を無失点に抑えベンチで海野隆司とハイタッチするロベルト・オスナ【写真:栗木一考】

15試合連続無失点も「数字は考えない」

 一走だった熊谷はプロ通算33盗塁。右腕も牽制球を挟み、間合いを変えるなどして走らせないための工夫を凝らしていた。二盗を阻止した海野には「(4日の)中日戦でもアウトにしてくれたし、いつも本当によく助けてくれる」と感謝を口にする。「海野に限らず、うちのキャッチャーはみんな肩が強い。だから、ランナーよりもバッターとの勝負に集中できるんだ」。強調したのは、自らの仕事に集中させてくれる仲間への信頼だった。

 今季は18試合に登板して防御率1.00。かつて見せていた安定感を取り戻し、勝利の方程式として貢献している。最後に失点を喫したのは、4月29日のオリックス戦(京セラ)。それ以降、15試合連続でゼロを並べ続けている。好調の要因を問われると、右腕は静かに首を横に振った。目指しているのは、チームの優勝だけだ。

「数字は考えないようにしていますね。チームが勝つことだけにフォーカスしているので。一番ダメなのは、試合を長引かせること。チームに貢献できるように、日々を全力で過ごしているので。今はまだ、数字は見なくていいかなと思います」

 日に日に存在感が大きくなっている31歳。どんな場面であろうと、果たすべき仕事は一つだ。「結果を気にして投げることはないですね。三振になるかもしれないし、ゴロになるかもしれない。僕たちピッチャーの仕事は、打者に立ち向かって目の前のアウトを取ることなので」。異様な雰囲気の中心で、頼もしく君臨した背番号54。何度も口にした「仕事」という言葉が、オスナらしさを表していた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)