最高の形で飾ったデビュー戦
ホークスの将来を担う育成選手に焦点を当てた新コーナー「未来の推し鷹」。今回は度重なる怪我を乗り越え、プロ4年目で待望の公式戦デビューを果たした飛田悠成投手が登場します。これまではリハビリ組での過酷な時間を過ごし、公式戦のマウンドに立つ機会をなかなか得られずにいました。しかし、29日のファーム・リーグ西武戦で6回から登板すると、4イニングを無失点に抑える快投を披露。支配下登録へ向けて大きな一歩を踏み出しました。3年という歳月の中で、一体何が変わったのか――。裏側にあった心境の変化と現在地に迫ります。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
清々しい瞬間だった。5月29日のファーム・リーグの西武戦。入団4年目を迎えた育成の飛田が、6回から公式戦初となるマウンドに上がった。待ち焦がれた舞台で、飛田は9回までに4つの三振を奪い、相手打線を無失点に抑える好投。3年以上の歳月を費やして辿り着いた公式戦デビューを、これ以上ない最高の形で飾ってみせた。
これまでは、怪我との戦いだった。今春のキャンプでは筑後のC組スタートから猛アピールを続け、キャンプ終盤にはB組の宮崎キャンプへ合流。しかし、ブルペンで強度を上げすぎた代償として左腹斜筋を痛め、リハビリ管轄となっていた。
「いつでもいける準備はしていたつもりなんですけど、自信を持っていけるか、というところで(迷いがあった)。時間はかかりましたけど、自信を持っていけたのでよかったです」
少し照れくさそうにしながらも、確かな手応えを感じた。度重なる暗闇の中で、どのようにしてマウンドを“楽しむ”までに至ったのか。その背景に迫る。
会員になると続きをご覧いただけます
この先で分かる3つのこと
苦しいリハビリを好転させた「ある意識」
トレーナーの制止を押し切って培った「修正力」
記念球を渡された飛田が困惑した、秋広の「謎の一言」
苦難のリハビリ期間も…「プラスにしか捉えない」
「一番はメンタルです。入団した最初の頃は何度もリハビリになって、めちゃくちゃ落ち込んでいたんです。だけど、今年のリハビリでは『プラスにしか捉えない』と決めて、それがどんどんいい方に進んだんだと思います」
以前は離脱するたびに深く落ち込んでいたというが、今年のリハビリ期間は違った。なぜ怪我をしたのか――。投球フォームや肉体はもちろん、日々の私生活や意識の細部に至るまでを徹底的に見つめ直した。飛田にとってその時間は、自らの進むべき方向性をもう一度はっきりとクリアにするための、かけがえのない時間へと変わっていった。
その成果は、マウンド上で「修正力」となって現れた。この日最初のイニングでは制球に苦しむ場面もあったが、すぐさま試合の中でアジャストしてみせた。「練習で球数をいっぱい投げ込んだので。トレーナーからは『球数を少なくしろ』って言われてたんですけど、結構投げちゃう方なので、そういうのもあって修正力がついたのかと思います」。自身の怪我の状態と向き合いながら、マウンドでパフォーマンスを発揮する感覚を研ぎ澄ましてきた。
急遽のスクランブル登板も “楽しむ”心
実は、この日の登板自体がスクランブルだった。前日28日までは3軍の韓国遠征に帯同しており、コーディネーターから突然、帰国を告げられた。「今日は投げないとちょっと思っていたんですけど、雰囲気的に投げそうな感じだったので、気持ちだけ入れて投げました」。慌ただしい状況下でも、淡々と心の準備を整えていた。
緊張の公式戦初登板を飛田はこう振り返る。
「ファンの数が多いと感じました。5回までのテンポも早いと感じました。緊張も結構したんですけど、試合前から“楽しむ”というテーマを持っていたので。楽しもうと思ったら、緊張は抜けました」。マウンド上での引き締まった表情とは一転して、試合後には晴れやかな笑顔が弾けた。
仲間たちの温かい空気にも包まれた。初セーブも記録した記念ボールは秋広優人内野手から手渡された。「『俺にくれよ』って言われたんですけど、意味がよくわからないですね(笑)」と白い歯がこぼれた。周囲も、飛田が重ねてきたこれまでの苦悩を知っているからこそ、その初登板の成功を心から祝福し、心地よいジョークで迎え入れたのだろう。
「自信にはなりました。自分が思っていた以上にできることが多かったので。そこはプラスに捉えて、これからも続けていきたいです」。そう語る飛田の視線の先には「支配下登録」がある。遠回りした3年間で、逆境を力に変えるタフさが身につけた。今季の支配下登録期限まで残り2か月を切った。悲願の切符を掴み取るまで、飛田は全力で腕を振る。
(飯田航平 / Kohei Iida)