王会長と柳田悠岐…運命が交差した1日
絶対に負けられない一戦で活躍するのは、紛れもないスターの証だ。「OH SADAHARU LEGACY DAY」として行われた24日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。一時勝ち越しとなる6号2ラン弾、そして決勝犠飛を放ったのは柳田悠岐外野手だった。「どっちが飛ばすんだ?」。王貞治球団会長が発した一言で、ホークスに誕生した背番号9の“スーパースター”。遡ること16年、2010年のドラフト会場で起きていた“真実”とは――。
初回に先発の前田悠伍投手が満塁弾を浴び、いきなり4点を追いかける展開となった。しかし、打線が2回に4点を奪って同点とすると、柳田の見せ場が来たのは3回無死一塁で迎えた打席だった。右腕・北山のカットボールを中堅右に運ぶと、球場は割れんばかりの歓声に包まれた。ホークスの全員が背番号「89」のユニホームを着用した一戦。「自分の力ではありませんが、何か不思議な力を得ることができたと思います」とコメントした。
その後に再び同点とされたが、“一番美味しい場面”はやはり柳田に回ってくる。8回1死一、三塁できっちりと左翼に犠飛を打ち上げ、これが決勝点に。3打点で勝利の立役者となった。「奇跡です、奇跡。数々のレジェンドの方が何かパワーをくれた気がします」。そう謙遜したが、柳田が今もホークスを引っ張っているのは間違いない。
1995年に当時のダイエー監督に就任した王会長が、ホークスのユニホームに袖を通して32年目を迎えた。脈々と受け継がれてきた“主力の伝統”。今のチームを象徴する柳田にとって、王会長とはどんな存在なのか。
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この先で分かる3つのこと
2010年のドラフト会議…福山スカウトが明かす舞台裏
秋山翔吾との比較…なぜ王会長は柳田獲得を決断した?
王会長への感謝、出会っていなければ「野球を…」
「若い頃から本当によく指導をしていただいて、バッティングの引き出しをたくさん作っていただいた方なので。試合になったらプレーに集中していますけど、今日球場に集まった方々を見て『やっぱり王さんすげえな』と実感しました」
授かった数々の教えの中で、背番号9が挙げたのは「思い切り振れ」と「丁寧に打て」の2点だった。打撃理論としては相反しているかに思える2つの要素。だからこそ「それが両立できた時に、いっぱい打てるんじゃないですかね。僕には無理ですけど」と笑った。通算1654安打、295本塁打を誇るスーパースター。打撃における技術を磨き続けてきたからこそ、37歳になった今も高い領域で結果を出すことができる。
2010年ドラフト会議の逸話「どっちが飛ばすんだ?」
王会長と柳田の関係性といえば、ドラフト会議での“逸話”が有名な語り草だ。
2010年10月28日に迎えた運命の日。スカウトたちは2位以降の指名について、どんな戦略を取るか決めかねていた。ドラフトが始まる午後5時が刻一刻と迫る中、会議には王会長も参加。当時の状況について、福山龍太郎・編成育成本部長補佐兼アマスカウトチーフが懐かしそうに振り返る。
「2位の時点で、外野手が残っているというのは僕たちも予想していたんです。結果的に西武に指名された秋山翔吾と、柳田がいるというシミュレーションでした。秋山はコンタクトする能力が高い好打者で、柳田は粗削りだけど身体能力に優れていました。どうしようかと話をしていたところ、王会長が『どっちが飛ばすんだ?』と。飛距離に関してはスカウトも全員『それは柳田です』と答えたので、『じゃあ夢がある柳田でいこうじゃないか』と。その一言で方針が決まりましたね」
秋山と柳田の映像に目を凝らして比較したわけではない。「柳田の方が飛ばします」とスカウト陣が口を揃えた評価を王会長は信じて、そのまま指名に至ったのだ。「王会長は基本的に指名や順位に口を出されることはないんです。僕は和田(毅)や馬原(孝浩)の時からいますけど、後にも先にも“その1回”だけじゃないですかね。目には見えない巡り合わせというか、それも運命だったのかもしれないですね」(福山スカウト)。ホークスで積み重ねた295本塁打――。その判断が間違っていなかったことを、他の誰でもない柳田自身が証明している。
ドラフト指名の背景にあった一連の流れ。チーム最年長になった柳田は「それ、ほんまなんですか? だとしたら本当にありがたいです。感謝してもしきれないです」。深々と頭を下げながら、笑みを浮かべた。ドラフト会場で起きた“真実”。もし、王会長と出会っていなかったら――。「もう今頃、(野球を)やっていないでしょう」。柳田にとって、それだけ大きな出会いであったことは間違いない。
「皆さん、たくさんの応援ありがとうございました。交流戦も始まりますし、もっと野手が助けていきたいと思います。応援、よろしくお願いします!」
まばゆいフラッシュライトを浴びながら、ヒーローインタビューに応じた37歳。王会長の思いを受け継ぎながら、勝利のために全力を尽くす。今も先頭に立ってホークスを導くのは、柳田悠岐だ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)