前田悠伍から上茶谷大河へ…2登板連続で実現した“兄弟リレー”
フルカウントとなり、フーッと息を吐く。勝負の6球目は右前に弾き返された。渾身のバックホームに助けられ、手にした3つ目のアウト。ベンチへと引き上げていく上茶谷大河投手の表情に、笑みはなかった。“弟分”を勝利投手にするために――。リードを守り抜いても、29歳の右腕はこの日も拳を握らなかった。
17日に行われた楽天戦(楽天モバイル最強パーク)。先発の前田悠伍投手が5回を投げ終えて1失点と試合を作った。今季最長の4連敗で迎えた一戦。1点リードの6回、首脳陣が送り出したのが上茶谷だった。2死二塁から平良が放った打球は一、二塁間を破ったが、右翼に入った山本恵大外野手のバックホームで本塁生還は許さず。小久保裕紀監督も「今日は山本の守備でしょう」と大絶賛するビッグプレーだった。
前田悠から上茶谷へ。背番号41にとっては、前回登板に引き続き、“兄貴分”にバトンを託すリレーとなった。最大の共通点は、ともに「負けず嫌い」であること。待望の今季初勝利を手にした夜、車中で2人が交わした会話。そして、上茶谷がマウンドで笑わず、ガッツポーズすらもしない理由とは――。無表情を貫く裏で、背負っているのは「人生そのもの」だった。
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この先で分かる3つのこと
上茶谷大河が知る“先発の気持ち”「背負わないと」
「人生」の重み。上茶谷大河が笑わない理由とは
前田悠伍が初勝利を手にした夜。車中で交わした会話
ガッツポーズをしない理由は「顔を見たらわかるでしょう」
「(自分の)顔を見たらわかるでしょう。“いっぱいいっぱい”なんですよ」
ピンチを乗り越えた時に込み上げてくるのは熱い感情ではなく、安堵感だという。リリーフとして開幕1軍入りを果たした今季は、13試合に登板して3勝5ホールド、防御率1.56。少しずつ自分のポジションを築き始めているが、本人はまだまだ目の前のプレーに必死だ。「僕は“このボールが”という投手ではない。全ての球を使って勝負しないといけないので」。謙遜するような言葉もまた、上茶谷が誰よりも足元を見つめていることを表していた。
DeNA時代には先発経験も豊富な右腕。ホークスに移籍して2年目の2026年は、走者がいる場面で送り出されることも珍しくない。「確かに、イカつい采配やなと思うことはあるんですけど、(小久保)監督の『行ってこい』という顔を見ると『やらなあかんな』と思いますよね」。心身を奮い立たせて、マウンドに向かう。誰よりも“先発の気持ち”を知っているからこそ、上茶谷は一球一球に「人生そのもの」を込めて投げている。
「シーズンが終わった時に防御率が出るじゃないですか。例えば、先発が残したランナーをリリーフが返してしまったとして、その1点って後々になって大きいんですよね。僕も先発だったので、その気持ちはよくわかります。先発をはじめ、他の選手の人生を背負って投げないといけないのがリリーフですし、だからこそ“いっぱいいっぱい”なんですよ」
その日の試合の流れはもちろん、オフシーズンになれば“その1点”が査定にも影響するかもしれない。年俸も変われば、その選手の人生も大きく変わる。無失点で切り抜けることだけが、今の自分にできる最高の仕事だ。
5月10日のロッテ戦…試合後「博多駅まで送ってもらった」
前田悠が今季初勝利を挙げた10日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。5回2失点でマウンドを降りると、3点リードの6回から登板したのが上茶谷だった。2人の走者を許したものの、無失点で切り抜け、ベンチ前でハイタッチを交わした。1軍での経験はまだまだ浅い背番号41だが、この瞬間が胸に刻まれたという。大好きな先輩の姿を目に焼き付けた、特別なシーンとなった。
「(降板後に)アイシングをしていたんですけど、テレビを見たら『チャーさんや!』と思ってすぐにベンチに戻りました。そうやってリレーというか、つなぐことができて嬉しかったですね。『一瞬スリーランよぎったわ』と言っていたんですけど、勝ちを消したくない思いで投げてくれていたみたいですし、ハイタッチをした時は純粋に『すごいな』と。この舞台で一緒にできているのがすごいなと思いました」
午後4時59分に終わった一戦。試合後、2人は一緒に本拠地を後にした。「僕が(筑後の)『若鷹寮』に帰る予定だったので、博多駅まで送ってもらいました。その時も『いやー、マジでよかったですね』というか、いろいろと野球の話はしていました」。2月の春季キャンプから、苦しい時に手を差し伸べてくれたのが上茶谷だった。助手席から見た先輩の横顔は、いつもより頼もしく見えたはずだ。
2勝目を手にした敵地での楽天戦。試合後に前田悠は「(ピンチになれば)燃えるタイプですね。打たれたら悔しいですし、自分が負けず嫌いというのは当然あるので」ときっぱり言い切った。マウンドで若き才能を見せ始めた左腕と、他人の人生を背負い、時には“いっぱいいっぱい”になりながらも安堵の息を吐く右腕。形は違えど、一歩も引かない熱い思いが、2人の心で共鳴している。
(竹村岳 / Gaku Takemura)