12日の3軍戦で11か月ぶりの実戦復帰「楽しかった」
“もう1つの人生”を捨てる決断をくだしたから、今ここにいる。なぜプロ野球に価値があるのか――。それを理解しているから、宇野真仁朗内野手は腐ることなく、リハビリ生活を送ることができた。
12日、タマスタ筑後で行われた四国IL愛媛との3軍戦で、約11か月ぶりとなる実戦復帰を果たした。「2番・指名打者」で出場し、2打席連続三振。結果こそ振るわなかったが「楽しかったです」と充実の汗を拭った。昨年7月には右肘のトミー・ジョン手術、9月には左手首の手術を受けた背番号46。目指し続ける1軍の舞台に向けて、小さく、力強い一歩目を踏み出した。
ルーキーイヤーだった昨シーズン、10試合出場ながらも2軍で打率.391と爪痕を残した。自分の力は通用する。そんな自信も手にしたかと思えば、宇野は「そんなことはないです」と首を横に振る。「『1軍の試合に出て初めてプロ野球選手』だと思っているので。その目標がブレることはなかったことですね」。きっぱりとした口調で、そう言い切った。19歳の言葉に滲むプロ意識。“もう1つの人生”を捨てたからこそ、宇野の決意は固い。
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この先で分かる3つのこと
19歳にして退路を断っている野球人生
中村晃や今宮健太…「毎日同じ」であることの凄み
観客78人から再出発。宇野真仁朗が語るプロの“価値”
既定路線だった早大進学…その選択肢を自ら「捨てた」
「『犠牲』と言えば大袈裟なんですけど、僕は大学に行くという人生を捨ててここに来ているので。もし大学に行っていたら、人脈もできただろうし、当然、学歴にもなったわけじゃないですか。ある程度は幸せにもなれたと思うんですよね。いろんなものを捨てて、僕はプロに来たと思っているので。それが逆にやる気にもなるし『やばい、やらないと』と思えます」
早実高時代には通算64発を放ち、全国の舞台も経験した。プロ入りを決意したのは3年夏の甲子園を終えた後の9月。それまでは早大進学が既定路線だったものの、18歳以下の日本代表に選出されたことがきっかけとなりプロ志望届を提出した。後戻りはできない。自分の選択を正解にするためにも、ホークスでの日々に邁進している。
1年近くのリハビリ生活。モチベーションを問われると「特定の物というよりは、入団した時から『1軍で活躍する』という目標が変わっていないので。その気持ちなのかなと思います」と即答した。そこにもまた、19歳ながらも達観した価値観が滲み出ている。「変な話になるんですけど……」。謙遜しながら口にしたのは、プロ野球の“価値”そのものだった。
「ファンの方々がいて成り立っている世界。プロ野球に価値を生んでいるのは、1軍の試合に出ている人たちだけだと思うんです。スーパースターたちはドームをいっぱいに埋めて、メジャーならもっと多くの人が球場に来て野球を楽しんでいる。あれがプロ野球の姿。集められる人の数が、価値(として捉える)の1つかなと。夢を与える職業だと思っているので、何億円も稼げる、大きなドームを埋める、それがプロ野球選手だと思います」
スタッフによる多大なサポートがあるからこそプレーに集中できている。ファーム組織に対する感謝の言葉を口にしつつも、選手である以上は1軍の勝利に貢献しなければならないことを、宇野は深く理解していた。「芸能人の方々も『これはすごい』となるから、人が集まる。批判的なことも言われるのかもしれないですけど、それすらも巻き込んでいる人の数だと思うので」。目標がブレないから、19歳は長いリハビリ生活でも己を貫くことができた。スタッフからも「宇野は本当によくやっている」という声が何度も聞こえてきた。
長いリハビリ生活の中で刺激を受けた先輩たちの姿
昨年に手術を決断して以降、コツコツと取り組んできた。一歩ずつ復帰へと歩む中、壁にぶつかったのが12月だった。「自分的にはギプスも取れて可動域も出てきた。痛みもないのに、まだ野球ができない。ウエートも『まだ安全に』という感じで、筋肉量を維持するだけだったので。その時期は進んでいる感がなかったですね」。向上心を抑えつけなければならないことは、辛かった。地道な日々で目に焼き付けたのは、どんな時も変わらずに進む先輩たちの姿だ。
「1軍で活躍している人が筑後にも結構来ました。今宮(健太)さん、栗原(陵矢)さん、中村晃さん。その姿を見ていると、先輩たちは毎日同じことをして、毎日自分の課題と向き合っていました。当然いろんな感情があるだろうに、特別なことをやるのではなくて、とにかく続ける。『あんなに実績のある人たちがやっているなら、自分はもっとやらないといけない』と思えました」
その中でも、筑後で4か月半のリハビリを送った中村晃内野手に驚愕していた。「毎日同じ時間からウエートを始めて、全く同じ姿、同じ顔でいるじゃないですか。晃さんが一番すごかったです」。復帰が近づき、宇野がティー打撃を再開した時。正面からのトスアップに「空振りはしないんですけど、ファウルチップみたいになって。ちゃんと当たっても『ボール重っ!』と思いました」。理解はしていたものの、理想と現実のギャップは大きかった。
グラウンドに立てるまで回復したのは、リハビリに対して宇野が真っすぐに向き合ってきたから。先輩たちの背中に、1軍選手としてのあるべき姿を見出したからだ。暗かったトンネルを抜けて、ようやく迎えた3軍での復帰戦。スタンドにいた観客の人数は「78人」だった。いつか必ず、みずほPayPayドームで4万人の大歓声を浴びてみせる。プロ野球選手としての価値を求めて、宇野真仁朗が走り出す。
(竹村岳 / Gaku Takemura)