「“1軍か2軍か”が決まる」この言葉に込められた真意
「『プロ野球やってんな』と思いましたね」
今季初勝利から一夜が明け、「渾身の一球」を振り返ったのは前田悠伍投手だ。10日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)で先発し、5回2失点。1点リードで迎えた5回2死一、三塁では、145キロの直球で空振り三振を奪い、この日最大のピンチを切り抜けてみせた。
この場面、相手打者は大卒3年目の上田だった。勝利投手の権利を手にするまで、あとアウト1つという状況。初球から6球目まで変化球を続け、最後に選んだのがストレートだった。「一番気合が入りましたし、気持ちが乗った球でした」。ラストボールを投げ切った左腕は、珍しく雄叫びをあげた。
試合後、前田悠が語ったのは“覚悟”だった。「あれで“1軍か2軍か”が決まると思っていたので。『絶対に抑えたろう』と。その気持ちだけでした」。一夜が明けた11日、投手練習に参加した左腕は、この言葉の真意を改めて明かした。まさに、生きるか死ぬか――。20歳はマウンド上で、自らの立場がかかっていることを深く理解していた。マスクをかぶった渡邉陸捕手が見た前田悠の表情の変化、そして“咆哮”。背番号41の思いがこもった「94球目」を徹底的に深掘りした。
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この先で分かる3つのこと
20歳の左腕がマウンドで抱いた悲壮な覚悟
渡邉陸との阿吽の呼吸で選んだ最高の直球
雄叫びを封印していた理由。屈辱を経て掴んだ自信
今でも忘れられない「3回6失点」のKO…雄叫びの裏側
「一、三塁になった時に『打たれたりフォアボールだったりしたら2軍だろうな』とは思っていました。まだ1軍で(今季)2試合目ですし、交代か2軍に落ちるか。それならもう絶対に気持ちで勝ったると思っていましたし、自信はあったので。変化球で決着がつかなくて、自分の中では真っすぐで決めるつもりでした。陸さんもそういう考えだったと思うので、一致してよかったです」
上田を歩かせてもまだ満塁ではあったが、左腕にとっては四球すら許されないことはわかっていた。目の前の打者を打ち取るしか、生き残る方法はない。フルカウントからの7球目。前田悠の意識は一点に集中していた。
「あそこで変化球を選択して打ち取ることができても、終わってからなんか嫌な感じがしたと思うので。思い切っていけてよかったです。どっちみち、打たれて後悔するのも自分ですし、良くない思いをするのも自分なので。腹を括って、最後は『真っすぐで仕留めたる』と。その気持ちしかなかったです」
大阪桐蔭高時代は3度の全国制覇を経験。西谷浩一監督のもとで青春の3年間を過ごし「笑ったりするのはあれでしたけど、感情を出してプレーするのは大丈夫でした」という。左腕が熱い気持ちを胸に秘めながらアウトを重ねていくようになったのは、プロ入り以降だ。そのきっかけとなったのが2024年10月1日、本拠地で行われたプロ初登板のオリックス戦。3回6失点でノックアウトされ、自らの現在地を思い知った。
「あの試合で、まだまだ自分は1軍レベルではないなと。もっとやらないといけないと思ったので。自然と出さなくなりました」。過去2年間、主戦場だったのは勝利よりも育成が求められるファーム。2軍という環境だからこそ、「感情を出せなかった、という方が近いかもしれないです」と本音で語った。1軍に残るか、2軍に落ちるか――。思わず雄叫びを上げてしまうほどの全身全霊の一球に「『プロ野球やってんな』と思いましたね」と、20歳らしい笑みを浮かべた。
前田悠伍の表情から伝わってきた「真っすぐで行きたい」
熱い思いを受け取ったのが、マスクを被っていた渡邉だ。直球という選択に「サインも1回で決まりましたね」と振り返る。変化球を続けたことで、前田悠の表情に変化が生まれていることを感じ取っていた。
「サインを出して頷いた時に、悠伍も『真っすぐでいきたい』みたいな顔をしていました。悠伍が一番自信を持っているのは、左バッターへの外の真っすぐなので。その球で行くしかないかなと。攻める時は思い切っていかないといけないですし、お互いの意見が一致した時ほど、いいボールが来るんだなというのを改めて感じました」
左腕の雄叫びを見て「僕も嬉しかったし、何よりシビれました。『悠伍、吼えたな』と思いながら。指にもかかったいい真っすぐを投げてくれました」。その喜びは、捕手だからこそ感じられる特別な感情だ。前田悠がルーキーイヤーだった2024年から、2軍で何度もバッテリーを組んできた。「5回の前に『この回が大事だから、全部出し切るくらいでいこう』という話はしていたので。それ(自分の言葉)も含めて、投げた最後の球だったとしたら嬉しいですよね」。力を合わせて掴んだ1軍の1勝は、忘れられない瞬間になった。
前田悠も「陸さんとはめちゃくちゃ合いますね。何回も組んできたので、信頼しています」と力強く言い切った。“一発”で合致したサイン、自らの全てを乗せたストレート、そして雄叫び――。渾身のベストボールが、2人の野球人生に刻まれた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)