ロッテ戦で先発し5回2失点…ピンチを切り抜け雄叫び
どんな時も、絶対に逃げなかった。左腕を襲った数々の苦難。ベッドに横たわりながら目に焼き付けたのは、大好きな先輩の“勇姿”だった。前田悠伍投手が今季初勝利を挙げた10日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。5回2失点と試合を作った左腕からバトンを受け取り、2番手として登板したのは上茶谷大河投手だった。2人の“運命”が交差した日から、68日が経っていた――。
前回登板から中6日で迎えた10日の試合。前田悠が先制を許したのは2回だった。1死一塁で井上に特大の2ランを浴びた。主導権を握られたが、そこから粘り続けた。5回2死一、三塁では上田を145キロ直球で空振り三振に斬り、雄叫びを上げた。変化球を続けながら、最後に選んだのはストレート。ここが“正念場”であることを深く理解していた。
「気合は一番入っていました。ああいうところで抑えないと1軍の選手ではない。あれで“1軍か2軍か”というところが決まると思っていたので『絶対に抑えたろう』と。その気持ちだけでした」
今から2か月前――。3月3日が左腕にとっての“分岐点”だった。ヤクルトとのオープン戦に先発予定だったが、体調不良で登板回避。開幕ローテーション争いから脱落し、大幅に出遅れる要因となった。その真相を、自らの口で語った。報道陣の前で見せた“強がり”、そして咳が止まらない中でも目を凝らした上茶谷の姿とは。
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この先で分かる3つのこと
38度の発熱と悪寒「チャンスを逃した」どん底の夜
ベッドで咳き込みながら目に焼き付けた上茶谷大河の姿
フォームを見失った2月…全ては「いい経験」
3月3日、前田悠伍が果たしたかった責任
「宮崎から福岡に帰る時にはもうしんどくて、『なんとか治ってくれ』と思っていたんですけど……ダメでした。休んだらローテーションから外れることもわかっていたので。侍ジャパンとの試合(2月22日の強化試合)もありましたけど、あそこでまた底に落ちたと思います。『チャンスを逃してしまったな』と。でも、もう終わったことは仕方ないので。切り替えてコツコツとやってきました」
3月2日にタマスタ筑後で投手練習に参加した左腕。翌日の先発登板に向けた囲み取材にも応じたが、その時点ですでに体調の異変を感じ取っていた。「簡単にランナーを出さないように。いい感覚を掴みたいですね」。弱さは見せたくない――。報道陣の前で見せた、20歳にとって目一杯の“強がり”だった。薬を「がぶ飲み」して調整に務めたが、「夜に反動が来て、そこからはもう無理でしたね……」。38度の発熱だけでなく、就寝前には経験したことのない悪寒が身体を襲った。
「最初はもう、野球のことは考えられなかったですね。『早く治ってくれ』と。それしか思っていなかったです」
翌3日、まだまだ寝込んでいなければならない状況の中で、左腕はベッドに横たわりながらタブレット端末を手に取った。本来は自分が先発マウンドに上がる予定だったヤクルト戦を見るため。自身の“代わり”に先発登板した上茶谷の姿を目に焼き付けるためだ。「咳をしながら見ていましたね」。どれだけ体調がキツくとも、20歳の左腕が果たしたい「責任」でもあった。
「もちろんその時は(開幕ローテ入りを)争っている立場だったので、他の人が投げているところを『見たくない』という気持ちもあったんですけど。急に(中継ぎ登板から先発に)変わって、僕だったら難しいだろうなとも思うので」
開幕ローテーションから脱落も…切り替え掲げた目標
前田悠は2025年の春季キャンプでも体調不良で一時離脱を経験している。今年は手洗いとうがいを徹底し、寝る際には乾燥を防止するためのマスクを必ず着けていた。対策はしていたものの、結果的に体調不良で開幕ローテ争いから脱落してしまったことを、どう受け止めたのか。
「侍ジャパンの試合でもダメで、なんとかヤクルト戦で挽回したいと思っていたところだったので。さすがに(気持ちは)落ちました。体調が戻ってきてからは部屋でずっと(自分の)フォームの動画を見て、その時に得たヒントもありましたし。頑張って状態を上げて『照準を合わせてやっていくしかないな』と。『次、先発が1軍に呼ばれる時は絶対に一番に呼ばれたる』とは思ってやってきました」
千賀滉大投手の自主トレに参加した左腕。2月には完全に投球フォームを見失った。たたみかけるように襲われた体調不良。「何をやっても上手くいかない時期はありました。今までそういう時間はなかったので、逆にいい経験ができたとは思っています」。野球人生で味わったことのないほどの苦難を乗り越えられたのは、コツコツと継続ができる前田悠の実直さがあったからだ。
「自分でしか何ともできない。誰に何を言われようと、やるのは自分なので。他人に任せて活躍できるほど甘い世界ではないですし、自分でやっていくしかないのかなと思います」
本来なら3月3日に同じ投手リレーが実現するはずだった。無念の離脱から68日が過ぎ、上茶谷と力を合わせて掴んだ本拠地初勝利だ。ヒーローインタビューで力強く誓った。「まずは1軍にい続けないといけないので。苦しい時でも自分のピッチングをして、勝てる投手になりたいです」。本気だと認める男同士、戦う姿勢を見せ続けていく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)