藤田悠太郎、初アーチの裏側に“2年間の我慢” 「笑っていいのか」…実った“朝7時半”のルーティン

  • 記者:飯田航平
    2026.05.03
  • 2軍
公式戦初本塁打を放った藤田悠太郎【写真:竹村岳】
公式戦初本塁打を放った藤田悠太郎【写真:竹村岳】

笑顔が生まれた“三塁ベース”

 待ち望んだ瞬間は、想像もしなかった“戸惑い”と共にやってきた。4月29日、タマスタ筑後で行われたファーム・リーグのロッテ戦。藤田悠太郎捕手が放った力強い打球が、左翼フェンスを越えた。「嬉しかったです」。公式戦で初めて描いた放物線。しかし、ダイヤモンドを一周する姿に歓喜の様子はない。それどころか、20歳の表情にはどこか固さが残っていた。

「最初は入っていると思っていなかったんです。どんな顔をして走っていいか分からなくて。スカしてても気持ち悪いし。笑いたいけど、笑ってもいいのかわからなかったんです」

 プロ野球選手にとって「初ホームラン」は一生に一度の勲章だ。守備でミスがあったことから素直に笑うことができなかったというが、この一打には確かな成長の跡がある。高卒からプロ入りし、入団から昨季までの2年間で自分に課してきた“誓い”と、筑後の静寂の中で積み上げてきた泥臭い日々。そして、そこには切磋琢磨する大切な仲間の存在があった。

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この先で分かる3つのこと

「笑っていい」と確信した瞬間、三塁コーチの反応
・隣で快音を響かす同期を横目に…打撃練習を封印した訳
・前田悠伍ら同期の躍進に、藤田が抱く本音

「三塁を回るくらいの時に金子コーチが笑っていたので。『あ、これ笑ってもいいやつなんだ』って思えました」

 張り詰めた心を解いたのは、三塁ベース付近でアーチを祝福した金子圭輔2軍内野守備走塁コーチの笑顔だった。安堵と確信が混ざり合った瞬間、ようやく20歳の等身大の感情が弾けた。ベンチへ戻れば、まるで自分のことのように喜んでくれる仲間がいる。同期入団の中澤恒貴内野手からは手荒い祝福を受けた。

“ようやく”取り組めるようになった朝の打撃練習

 この一発の背景には、2年間にわたる「我慢」があった。筑後で寮生活を送る藤田。午前7時半には室内練習場でバットを振る。「もうルーティンになっています。筑後にいる時は毎日やっていて、当たり前という感じです。笹川(隆4軍チーフ兼守備走塁)コーチが投げてくれるので、僕とザワ(中澤)で打っています」。朝練は1年目から続けてきたものだが、“バットを握れる”ようになったのは、今年に入ってからのことだった。

「去年までは守備をやっていました。キャッチングだったり、(ボールを)握り替える練習だったり。その隣でザワはずっと打っていたんです。僕もバッティングがしたいけど、まだその段階じゃなくて。守備を上げていかないといけなかったんです」

 隣で快音を響かせる同期を横目に、防具を付け、ボールを受け続けた。打ちたい気持ちを抑え、まずは捕手としての土台を作る。その制限を解き、今年から本格的に始まった朝の打撃練習が、最高の形で実を結んだ。

 同期の存在は藤田にとって何よりの刺激だ。マウンドで躍動する前田悠伍投手、藤原大翔投手、長水啓眞投手。そして2軍で高打率をマークする中澤や佐倉俠史朗内野手。「『負けてられんな』と思います。みんないい結果を出してるし、歯を食いしばってやっているやつらばかりなので」。仲間の活躍も、自らを突き動かすエネルギーに変わる。

 ダイヤモンドを回る時の「笑っていいのか」という迷いは、がむしゃらに前だけを見てきた証拠。純粋すぎるがゆえの戸惑いだ。1軍の舞台で、何の迷いもなく満面の笑みを浮かべるその日まで。藤田悠太郎は仲間とともに、高みを目指す。

(飯田航平 / Kohei Iida)

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