今の若手に「もったいない」と感じることも…明かしたその理由
キャッチャーとしての優しさは、プロにとっては「甘え」に変わる。嶺井博希捕手が、“準備の鬼”へと変貌を遂げた決定的な瞬間だ。自らの“あり方”を考えさせられた、大きな後悔がある。
シーズンが開幕して約1か月。2軍で日々を過ごす34歳のベテランは静かに口を開いた。自由な環境だからこそ、若手に抱く「もったいない」という本音、逆境で語った矜持とは――。
ホークス加入4年目の今季。2月の春季キャンプはS組からB組へと移り、ここまで1軍昇格はなし。チャンスを待つ日々が続いているが、絶対に準備を怠ることはない。「仕事ですから。(姿勢を)変える理由がないです」。宮崎での日々は午前7時過ぎにアイビースタジアムに到着すると、真っ先に室内練習場へ。ストレッチをしながら、黙々と全体練習に備えるという時間を続けていた。
それはキャンプが終わっても変わらない。筑後でも全体練習よりも遥かに早く体を動かし始める。なぜ、これほどまでに過酷な準備を、当然のように続けられるのか。13年間のプロ人生を遡ると、かつての相棒に突きつけられた厳しい言葉に行き着く。
「無責任だぞ」
捕手としての魂を揺さぶられた瞬間。プロとは何か、責任とは何なのかを考えさせられる出来事だった。2軍生活はもうすぐ3か月を過ぎようとしている。逆境に立ち向かう34歳が明かす胸中――。どんな環境においても準備を貫くのは、忘れてはいけない悔しい経験があるからだ。
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続きの内容は
午前7時の始動。1軍昇格なしの逆境でも嶺井博希が「準備」を怠らない理由
捕手としての分岐点。かつての相棒に突きつけられた「無責任だぞ」の衝撃
「今の若手は損をしている」。自由な環境だからこそベテランが抱く静かな危惧
DeNA時代に突きつけられた言葉「無責任だぞ」
「あるピッチャーから『お前、無責任だぞ』と言われたことがあるんです。それまで僕は、ピッチャーが投げたい球をずっと要求していたんですけど、『こういう考えの人もいるんだ』と。そこからはもっと自分の意見を言うようになりました。はっきりと言うなら、その責任を自分で持たないといけないし、勉強もしないといけないので。なぜ準備をするようになったのか。『これが』と挙げるなら、その一言が大きかったです」
DeNA時代に味わった痛烈な経験。“ある投手”の名を明かすことはなかったが、13年間のキャリアでもっとも胸に刻まれている言葉だ。「あれは大きな分岐点でしたね」。そう語る表情に、いつものような優しい笑みはない。過去を振り返りながら、嶺井は背筋を伸ばしていた。それほどまでに自分を変えた決定的な出来事だった。
2013年ドラフトで3位指名を受けてDeNAに入団。背中を見た先輩の1人が、宮崎敏郎内野手だった。今でも自主トレをともにする3歳年上のヒットマンの存在に「あの人も朝が早いんです。ランニングをして、バッティングをして、ウエートをする。いつも同じようにやっていたのは覚えていますね」。自らが器用でないこともわかっている。競争を勝ち抜きたいのなら、誰よりも練習し、徹底的な準備を重ねるしかなかった。そして、そのスタイルは今も全く変わっていない。
「結果を出すのがプロですから。どうあるべきか、というのは自分の中ではないんです」。どんな状況でも変わらない真摯な姿勢。その原動力はいたってシンプルだ。「上手くなりたい。その気持ちさえあれば、どこの環境でも一緒かなと思います。自分は下手くそなので、何かヒントがないかな、いつか見つけられないかなと思いながらやっているだけです。失敗することもありますけどね」。謙遜しながらも、その口調は力強い。行動で示す嶺井の姿に、2軍首脳陣や若鷹からもリスペクトの声が聞こえてくる。
自主性を重んじる中で必要な“強さと厳しさ”
プロ入りした当時、DeNAは「自主性」を重んじるチームだったという。その空気は、今のホークスにも重なる。沖縄尚学高、亜大と厳しい指導者に恵まれたおかげで嶺井は自分を律することができるが、若手の姿を見て「もったいない」とも感じるという。
「自分も若い時は全然やらなかったですけどね。やっぱり気づくのは時間がかかりますし、今のご時世ではやらせることもないので。無理やりにでもさせることで気づく人もいるかもしれないですけど、そういう意味では『もったいないな』と。今の若い子たちには、損をさせているのかなと、それもまた一理あるのかなと思うことはあります。やる理由がないと、絶対に続かないですから」
自主性が重んじられるからこそ、必要なのは自らを律する強さ。厳しさのおかげで、13年もプロの世界で生きてこられた。しかし、言い方を変えれば今の若手たちは自分で気づくしかない。厳しさがないことでまた“損”をしているかもしれない――。
「真似してほしいだなんて思っていないですし、人それぞれの選択肢がある中で、僕の正解がそうだっただけです」
嶺井はこう強調したが、どんな時代もプロ野球は弱肉強食の世界。後悔だけはしたくないから、また、誰よりも早くグラウンドに飛び出していく。
「人生の中でたまたま今、野球をやらせてもらっている幸せな時間がある。そんな感覚です。大部分を占めていますけど、野球が終わったら人生が終わるわけでもない。今はただ、ひたすら上手くなりたい。それだけですね。僕も悪い方に行ったこともありましたし、それも今になれば『いい経験だったな』と思うので。それ以前の(アマチュア時代も含めた)教育のおかげで今、野球を続けられています」
準備に詰まったプロの哲学。静かな口調からは、どこか確信めいたものも感じられた。嶺井博希、34歳。その存在を、1軍が必要とする日は必ず来る。
(竹村岳 / Gaku Takemura)