前田悠伍があえて口にした“怒り” 試合中に溢れた声…心境は「1軍やと無理なんやろ」

  • 記者:竹村岳
    2026.04.20
  • 2軍
2軍戦に登板した前田悠伍【写真:竹村岳】
2軍戦に登板した前田悠伍【写真:竹村岳】

最速タイ149キロ。被弾直後に漏れた“声”と「怒り」の正体

 20歳の表情には、確かな変化があった。取り戻そうとしているのは、もっとも自信に満ちていた時の姿だ。「イライラして投げていました」。6回途中1失点と好投した17日の試合後、前田悠伍投手は落ち着いた口調ながらも、強い言葉を口にした。あえて“怒り”という感情をあらわにした真意は、どこにあったのか。

 17日に行われたファーム・リーグのオリックス戦(タマスタ筑後)。2軍で今季4度目の登板(先発は3度目)に臨んだ左腕が喫した失点は、2回2死に許したソロアーチのみ。5回1/3を投げて6三振を奪った。「真っすぐのラインも出ていましたし、変化球も要所で投げ切れたのかなと。攻めていけたのは良かったと思いますね」。投球フォームに思い悩む姿はもうどこにもない。バッターとの“対戦”に集中するという意識は、しっかりとボールに表れていた。

「あの一球はもったいなかったですし、そこからは修正するしかないと思っていました」。左腕に変化が生まれたのは、横山に一発を浴びた直後。池田に対して自己最速タイの149キロを計測したが、それだけではない。投げる瞬間に“太い声”が漏れるほど、力強い直球を投げ込んでいた。前田悠にとっては珍しい姿だったが、ここに“怒り”の真髄がある。

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続きの内容は

「イライラしますね」“怒り”の言葉の真意とは
DeNA松尾汐恩が気づかせた黄金時代の感覚
斉藤和巳監督の助言。叫びとともに見据える1軍の舞台

「打てるわけないやろ」黄金時代のマインドセットへの回帰

「1軍で投げたい気持ちはめちゃくちゃありますよ。だけど、見ているファンの人も相手チームも『どうせ1軍では無理なんやろ』と。そう思っていると勝手に決め込んで、いい意味で期待を裏切れるように投げていました。イライラもしますけど、それがエネルギーになる。きょうはそういうマインドセットが上手くいったのかなと思います」

 バッターに対して、真正面から向かっていく。“イライラ”とはあくまでも左腕なりの表現で、腹の底から湧き上がってくるような闘争心を意味していた。「そういう時の方が、緊張感とかも楽しめていますし、いい結果が出ることの方が多いですね。技術もそうですけど、自分が持っているものをすべてぶつける感覚です」。フラットな視点を忘れたわけではない。周囲から低評価されていると信じ込むことで、反骨心に変えた。技術面の不安が消えてきたからこそ、次はメンタル面にも目を向けられるようになってきた証だ。

 大阪桐蔭高時代には3度の全国制覇を経験。「それこそ高校の時は『お前らに打たれるわけないやろ』と思いながら投げていましたね」。エースとしてマウンドに君臨した左腕はプロ入りを果たしたが、3年目の今年2月には投球フォームを見失った。その根底にあったのは、過去との“比較”でもあった。「もちろんレベルが違うので、当たり前のことだとはわかっているんですけど。バッターを“見下ろす”ような、あの感じが自分の中で出てこないんですよね……」。絞り出す言葉には、頂点を知った者だけが味わう苦悩と孤独が滲んでいた。

 宮崎キャンプから高校時代の映像も見返し、当時の野球ノートも漁った。頼ったのは、高校時代の1学年上にあたる先輩たちだった。ともに甲子園優勝を成し遂げたDeNAの松尾汐恩捕手にも電話をかけると「『お前、先輩後輩とか関係なく投げていたやん。それくらい、ふてぶてしくいけよ』と言われて、それが一番なくなっていたなと思わされました」。ハッとさせられた瞬間。怒りにも近い、ピリつくような気持ちを左腕は追い求めてきた。

降板する前田悠伍と斉藤和巳2軍監督【写真:竹村岳】
降板する前田悠伍と斉藤和巳2軍監督【写真:竹村岳】

斉藤和巳監督の金言…1軍マウンドを見据える20歳の現在地

 再び闘争心を燃やそうとしている20歳だが、マウンドのうえでは冷静沈着だ。そのクールさの原点も、青春の3年間にある。常勝を義務付けられた名門校。背番号をかけたチーム内の競争は、歯も見せられないほどの緊張感に包まれていた。「僕たちは練習が一番しんどかった。笑ったりするのもダメでしたから」。誰かに教えられたわけではない。大阪桐蔭で過ごした日々が、自分の投手像を形成した。

 6回途中で降板したこの日、斉藤和巳2軍監督がマウンドまで足を運んだ。2番手・宮里優吾投手にボールを手渡し、ベンチへ戻っていく指揮官と言葉を交わした。「どうしてもクイックの時に(球速が)落ちるので『こうやってみたらどうや』というフィードバックでした。セットポジションでも変わらないようにするのも課題の1つです」。熱い闘争心は、もう絶対に失わない。1軍を目指すための心身の準備が、ようやく整った。

「『自分が中心で回っている』じゃないですけど、そういう感覚がきょうはあった。しっかりと“ピッチング”ができていたと思うので、課題を大切にしながら、イニングを伸ばしていけるようにしたいです」。そう語る表情には自信の2文字が見えた。凛とした目線は、前だけを見ている。開幕して1か月が過ぎようとしている2026年シーズン。前田悠伍の目は、淡々と1軍のマウンドを見据えている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)

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