上茶谷大河の涙…隠し撮りされた「泣き顔のチェキ」 初勝利の原点、絶望で感じた大きな愛

  • 記者:竹村岳
    2026.04.13
  • 1軍
移籍後、初勝利を挙げた上茶谷大河【写真:産経新聞社、本人提供】
移籍後、初勝利を挙げた上茶谷大河【写真:産経新聞社、本人提供】

察していた現ドラ移籍…横浜“最後の日”に授かった大きな愛

 明るい笑顔の裏側には、ルーキー時代に人知れず流した涙があった。今も大切に持ち歩いている「1枚のチェキ」――。写っているのはスポットライトを浴びた姿ではない。闇の中で膝を抱え、涙を流す無様な自身の姿だ。上茶谷大河投手が移籍2年目で手にした“ホークス初勝利”。北の大地で見たお立ち台の景色は、どこまでも澄み渡っていた。

 12日の日本ハム戦(エスコンフィールド)。先発の松本晴投手が3回途中5失点で降板し、試合は乱打戦の展開となった。4回からマウンドに上がった上茶谷は3回を投げて2四球こそ与えたものの、無安打無失点の快投を披露。小久保裕紀監督が「きょうはなんと言っても上茶谷」と大絶賛する内容だった。今季4試合目の登板に「フォアボールが多いですね」と課題を口にしたが、開幕からロングリリーフとしてチームの勝利に何度も貢献している。

 2024年オフに行われた現役ドラフトでDeNAから移籍した右腕。新天地での飛躍を誓った矢先、昨年2月には右肘のクリーニング手術を受けた。誰しもが失意の底に落ちそうな状況にも、上茶谷は持ち前の明るさで後輩を照らし続けた。「暗くなっても仕方ないでしょう!」。沈む空気を笑いに変える。その献身ぶりの原点は、2019年のルーキーイヤーにある。絶望の淵で聞こえた「シャッター音」。涙する自分を、救ってくれた先輩がいた――。

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続きの内容は

絶望の涙と1枚のチェキ。山崎康晃に救われた愛の原点
愛車に貼られた“偽の駐禁”。今明かす、ベイスターズ“最後の日”
後輩へ繋ぐ「恩送り」の精神。近藤健介も認めた献身的な姿

チェキに添えられたメッセージ「攻める姿勢を見せ続けろ」

「僕は山崎康晃さんから大切なことを教わったんです。それこそオンオフの切り替えに関しても、めちゃくちゃ言われました。『張り詰めすぎるな。休む時は休め。抜く時があってもいいから、やる時はちゃんと真面目にやれよ』と。ヤスさんも試合になったらバンと気持ちを入れるタイプなので。最初にそれを見て、ほんまにプロやなと思ったんです」

 明かしたのは、通算235セーブを誇る横浜のクローザーとの思い出だった。忘れもしない2019年8月13日のヤクルト戦(神宮)。先発した上茶谷は4回7失点で降板し、チームも敗れた。試合後、クラブハウスの近辺で誰にも見られないように1人で涙を流していた。「試合が終わったら誰も通らないところがあるんです。そこで『くっそー』って。ああでもないこうでもないとか言いながら落ち込んでいました」。ゲームセットは午後9時38分。夏の暑さの中、闇夜にまぎれるようにひっそりと通路に座り込んでいた。

「カシャ」。後ろから聞こえたシャッター音。振り向くと、山崎によるまさかの“隠し撮り”だったことがわかった。最初はイタズラかと思ったが、翌日に思わぬ出来事が待っていた。山崎が写真を現像し、メッセージを添えて渡してくれた。「どんな時も攻める姿勢を見せ続けろ。本気で取り組むから結果に悔しさが生まれる」――。福岡に移籍した今も手元に残している大切なチェキ。ホークスでも見せ続ける“面倒見の良さ”のルーツは、ここにある。

「ヤスさんに『お前もそういうふうになれよ』と言われているんだろうな、自分もそうならなあかんなと思ってやってきました。だから落ち込んでいるやつを見ると自然と声をかけちゃうし、放っておけない気持ちはありますね。しかも僕は、ヤスさん自身が上手くいかない時も見ているんです。それでもあの人は僕らの心配をするんですよ。ポジティブな言葉をかけてくれて、自分もやれるという思いにさせてくれるので。ほんまにすごいなと思いました」

山崎康晃がプレゼントしてくれたチェキ【写真:本人提供】
山崎康晃がプレゼントしてくれたチェキ【写真:本人提供】

今も愛車に忍ばせる“偽”の「駐車禁止」の紙

 ホークスとDeNAが激突した2024年の日本シリーズ。40人の登録メンバーから外れた上茶谷は、来季を見据えて始動していた。頂上決戦の真っ只中だった11月1日、契約更改のために横浜スタジアムを訪れた右腕は、顔を合わせた山崎に思わず本音を漏らした。「僕、現ドラじゃないですかね」。参加が決まっていたメキシコへのウインターリーグ。“帰国日”が現役ドラフトの行われる12月9日だったことも含め、移籍を察していることを正直に打ち明けた。

「契約更改してきますわ」「じゃあ、俺は練習だから」。そう言い合って別れた後、球団の提示にサインをして帰路に就こうとした。自身の愛車に貼られていたのは、駐車禁止の紙。「は? なんで?」。裏を見てみると、またしても山崎のメッセージが記されていた。「『いろいろあったと思うけど、1年間の疲れもあると思うから。まずはゆっくり休んで』と書いてあったんですけど、僕は次の日からメキシコだったんですけどね(笑)。まあ、そういう粋なことをする男なんです」。ベイスターズの一員として過ごした“最後の日”。もらった大きな愛情は、今も大切な原動力だ。

 昨年2月の手術から実戦復帰まで続いた地道な日々。「ベイスターズはリハがめっちゃ明るかった。ホークスはめっちゃ静かで、ただでさえ気持ちも落ちているのにつまらないじゃないですか。1人でもめっちゃ明るいやつがいたらどうなるんかなと思って」。独自の“掛け声”も考案するなど、プレーができなくても、明るく振る舞えることを上茶谷が証明した。そんな姿には、先輩たちも手を差し伸べたくなる。「近藤(健介)さんが『頑張ってほしいから』とお寿司屋さんを筑後に呼んでくれたり、ギータさんもそういうことをしてくれたので。温かいチームですよね」。

 移籍2年目とは思えないほどホークスに溶け込んでいるのは、右腕が献身的に振る舞ってきた“努力の証”だ。北海道で掴んだ白星は、自身のキャリアにも深く刻まれた。「まだ始まったばかりですし、守備に助けてもらうことも多かったので。自分の力で抑えられるように、頑張りたいなと思います」。先輩からもらった愛情は、必ず倍以上で返していく。上茶谷はもう、チームに欠かせない大きな戦力だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)