「スギの日じゃなかった」に込められたエースの思い
仲間から信頼される投手の振る舞いとは、こういうものなのだろう。ZOZOマリンスタジアムで行われた3日のロッテ戦。先発の上沢直之投手は8回無失点、9奪三振の快投を見せた。小久保裕紀監督も「本当に素晴らしい」と右腕の熱投を称えた。
だが、試合はまさかの結末を迎える。2点リードの9回、上沢の後を継いだ守護神・杉山一樹投手が1点を返され、なおも2死二、三塁のピンチ。ここで藤原に逆転サヨナラとなる2点二塁打を浴びた。これまでセーブシチュエーションでの失敗がなかった杉山は、マウンド上で立ちすくむしかなかった。
試合後、報道陣に囲まれた上沢の口数は決して多くなかった。「やれることはできたかなと思います」。チームの敗戦を自分事として受け止めているようだった。そんな上沢に「杉山投手に何か声をかけたのか」と尋ねると、右腕は“笑顔”を浮かべ、こう語った。
「『そういう日もあるっしょ』という話をしました。逆に、去年セーブを1回も失敗しなかったですし、あんなきついところで本当によくやっているなと思っています。 たまたま、きょうはスギ(杉山)の日じゃなかったというだけです」
勝ち星消滅も…上沢が示した「仲間への敬意」
上沢がかけたその言葉には、慰め以上の重みがあった。「スギの日じゃなかった」――。それは、共に修羅場をくぐり抜けてきたからこそ言える言葉だ。自身の勝ち星が消えたことよりも、守護神が背負った傷が少しでも早く癒えること、そして次も堂々とマウンドに立ってくれること。そのことだけを願っているように思えるほど、穏やかな口調だった。
一方、杉山は「大迷惑をかけてしまったんで、申し訳ないです」との言葉だけを残して球場を後にした。クローザーという過酷な職場で戦い続けてきた男にとって、これ以上の悔しさはないだろう。9回のマウンドに立つ男の責任の重さ。杉山の気持ちを上沢は誰よりも察していた。
この日の上沢は、味方の守備にも何度も助けられた。特に4回は、山川穂高内野手の好守でアウトを奪うと、次打者が放ったセンターへの飛球を、周東佑京外野手がフェンスに激突しながらもキャッチするビッグプレーが飛び出した。「本当にすごく良いプレーだったので、とにかく助かりました」と語る背番号10は、ベンチに戻ってからも「ありがとう」と言葉をかけたという。
8回の2死満塁のピンチで寺地を空振りの三振に仕留めると、マウンド上で力強く雄叫びをあげた。そんなエースの背中にはチームメートからの確かな“信頼”が宿る。ショッキングな敗戦を喫した千葉の夜。それでも仲間を思いやる上沢の表情は、どこか晴れやかだった。
(飯田航平 / Kohei Iida)