育成5位ルーキー・鈴木貴大が振り返る春季キャンプ
将来のチームを背負う育成選手に焦点を当てた新コーナー「未来の推し鷹」。今回は育成5位の鈴木貴大外野手が登場です。24歳でプロ入りを果たしたオールドルーキー。「もういらないかもな」。1度は夢を諦めかけ、思わず“男泣き”した瞬間――。そして恩返しを誓う“2人の監督”とのエピソードを、赤裸々に語ってくれました。
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諦めかけていたからこそ、名前を呼ばれて男泣きした。ドラフトの瞬間。「僕は当落線上の選手だったので」。今季からホークスの一員となったルーキー、鈴木貴は人生が変わった瞬間を興奮した表情で振り返る。24歳でこじ開けたプロの扉。春季キャンプから見守っている斉藤和巳2軍監督が絶賛したのは「ある能力」だった。
2月の春季キャンプは発見の連続だった。育成から這い上がった先輩たちの名前を挙げ「(同学年の)石塚(綜一郎)や緒方(理貢)さん、川村(友斗)さんみたいに、支配下になった人を間近で見られたので。プロのレベルにも触れて、刺激が多かったですね」。B組の練習試合では左中間にアーチを放つなど、1か月間で確かな存在感を示した。グラウンドで声を張り上げる鈴木貴の姿には、多くのファンが心を動かされたはずだ。
藤沢清流高、富士大、クラブチーム「CLUB REBASE」を経て、育成ドラフト5位指名を受けた。大学時代、公式戦出場はわずか2試合。高い身体能力を秘めながらも、チャンスを掴めずにいた。忘れもしない、昨年の10月23日。ほんの一瞬だけ、鈴木貴はプロ入りを諦めかけていた――。
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続きの内容は
「もう無理かも…」プロ入りを諦めかけた“絶望の瞬間”
斉藤和巳監督が「最近はいない」と絶賛する“泥臭い姿勢”のルーツ
24歳で位置付けていた限界「失うものがない」と言える明確な理由
調査書が届いたのはホークスだけだった
「いや、実は嬉しくて泣いちゃったんですよね。ここまでの道のりも長かったので……」
ドラフト前に調査書が届いたのは1球団だけ。一縷の望みをかけて、当日の中継を見守っていた。しかし、ドラフト5位で指名されたのは同学年で同じ右打ちの高橋隆慶内野手だった。「ホークスしか可能性がないのに高橋が先に呼ばれて。『もしかしたら僕はいらないかもしれないな』と思いました」。気持ちの糸は1度、確かに切れた。「鈴木貴大」の名が画面に映った時は、信じられずにその場から立ち上がった。夢が叶い、涙が頬をつたった瞬間だった。
「去年のドラフトで選ばれていなかったら野球を辞めていました。小学校から大学まで続けてきて、社会人に行く時もまだ野球を諦められなかった。その気持ちは僕自身が一番わかっていますし、野手で“一芸”で勝負すると思ったら、24歳が限界かなと。そういう経験があるからこそ失うものはないし、後悔もしたくない。あと何年プレーできるかもわからないので、日々を全力で頑張っていきたいです」
斉藤和巳監督も「ここ最近の野球界にいないタイプ」
その言葉通り、春季キャンプ初日は太陽が沈むまで練習に励んだ。野球に全てをかけ、支配下を掴み取る。泥臭い姿勢を斉藤監督は「どんな時も声が出ているし、うちだけじゃなくて、ここ最近の野球界にいないタイプだよね」と評価する。ハツラツさを貫く鈴木貴のルーツは、社会人時代。「CLUB REBASE」の田口蒔人監督の存在が、自分の“野球観”を変えた。
「田口監督は選手兼任だったんですけど、現役選手の誰よりも声を出していました。そしたら、鷺宮製作所との公式戦でアクシデントがあって、いきなり監督が試合に出ることになったんです。シートノックもなしで、普段練習もしていないんですけど、いざ試合となったら流れに遅れるようなこともなくて。初回からちゃんとプレーできていました。声を出すというのは雰囲気を明るくするだけじゃなくて、練習や試合に入っていくための重要な準備。それを僕は田口監督から学びましたし、その姿勢をプロでも変えずにやっています」
プロとして初めて迎えた2月のキャンプ。斉藤監督のもと、宮崎のB組からスタートした。「和巳監督も練習中、声を出す方なので。選手1人1人のことをとてもよく見ていて、親しみやすいなと思いますね。僕の課題であるスローイングに対してもいろんなドリルを考えてくれたり、『こういうのも試してみたらどうかな』って教えてくれます」。若鷹が日々記している「日報」を通しながら、指揮官は自身の経験を伝えてくれる。お世話になった“2人”の指揮官のためにも、1日も早く支配下を勝ち取りたい。
「僕はプロの世界はちょっと疎かったんですけど、もちろん和巳監督のことは知っていました。やりやすい空気を作ってもらってとてもありがたいですし、1つ1つの言葉をこれからも大切にしていきたいです」。次に涙を流すのは、2桁の背番号を手に入れた瞬間だ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)