福岡出身の佐倉にとって斉藤監督は“スーパースター”
どれだけ疲れていても1か月間、ロングティーを継続した。斉藤和巳2軍監督が隣で見守る中、少しでも遠くへ飛ばすためにフルスイングを繰り返してきた。「僕の成長を一番見てくれている人ですね」。日も沈んだグラウンドで汗を拭ったのは、今季3年目を迎えた育成の佐倉侠史朗内野手だ。何度も怒られた日々、そして指揮官に理解してもらった「子どもの気持ち」――。20歳の原動力に、深く迫った。
九国大付高では通算31本塁打を放ち、2023年育成ドラフトで3位指名を受けてホークスに入団した。ルーキーイヤーだった2024年、非公式戦では76試合に出場。同年に4軍で指揮を執っていたのが、斉藤監督だ。福岡県久留米市出身の佐倉にとっては、まさに“スーパースター”。「札幌ドームのマウンドで泣き崩れているのも(映像で)見たことがありますし、最初の印象としては、正直いかつかったですね」。そう苦笑いしたが、自分を変える出会いとなったことは間違いない。
2024年は4軍、2025年は3軍の監督を務めた斉藤監督。佐倉と似た道のりを歩み、2月はお互いにB組で汗を流してきた。支配下登録を目指す20歳にとってはどんな存在なのか。
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続きの内容は
恩師・斉藤和巳監督が授けた、プロとして大切な「徳を積め」の真意
支配下を掴んだ瞬間に佐倉選手が監督へ伝えたい「謝罪と感謝」
指揮官が「レベルが上がった」と認めた、20歳の精神的な変化
最後の1球まで隣で見守る…期待を感じる斉藤監督の視線
「4軍の監督だった時から僕たちを見てくれているので。3年目の選手に、多少“思い入れ”があるんだなっていうのは伝わってきますね。藤原(大翔)、中澤(恒貴)、長水(啓眞)。育成じゃない選手ももちろんですけど、僕たちが支配下に上がることが監督への“恩返し”になると思うし、お互いに頑張ってきたことが『報われたな』って初めて思えるはずなので。結果を出さないといけないです」
宮崎で過ごした春季キャンプの1か月間。個別練習で佐倉は必ずロングティーを取り入れてきた。斉藤監督の目線を浴びながらの日課にも「慣れたものですよ」と笑う。そのうえで「近くで見てくれるのはすごく心強いですし、僕から『帰っても大丈夫ですよ』と言いつつも、結局は残ってほしいなっていつも思っていますね」と頭を下げた。最後の1球を打ち終えるまで、必ず見ていてくれる。指揮官の期待をひしひしと感じながら、必死にバットを振り続けてきた。
3年間で、限りなく距離感は近くなった。「悩みがあったらすぐに気付いてくれます。厳しい人ですけど、心の支えになっています」。現役時代に数々の栄光を手にした指揮官から授かった数々の教え。その中で大事にしている言葉は「徳を積め」――。シンプルな思いに、プロとして大切な要素がぎゅっと詰まっていた。
「野球のことはもちろん、グラウンド外のことも言われますね。ボールが転がっていたら自分のじゃなくても拾ったり、ペットボトルが落ちていたら片付けたり……。そうすることによって自分の気持ちも楽になるし、結果は自然とついてくると。あとは、和巳さんは絶対に“攻めたミス”には何も言いません。逆にミスを恐れてプレーしていると、しっかりと言ってくれます。そこの区切りがちゃんとしているからこそ、僕たちもやりやすい。そういう意味では自分の成長は感じます」
支配下登録を勝ち取って言いたい「あの時はすみませんでした」
指揮官も、佐倉の成長を感じ取っている。18歳の頃から知っている愛弟子の1人。「このキャンプでずっと見てきたし、話もしてきたんやけど。今までとは会話のレベルも上がっている。『ランク上がったな』というのは本人にも言ったし、必要最低限のものが備わってきた証拠でもあるからさ」。1軍で活躍するという目標は、絶対に変えない。どんな日々を過ごせばいいのか、佐倉の意識に変化が生まれている何よりの証だった。
斉藤監督から怒られたことも少なくない。3年目の20歳は「野球以外のこともありますよ」と頭をかくが、「監督もわかってくれていて、大人の対応をしてくれます。僕たち“子どもの気持ち”を踏まえて話もしてくれるので。怒られて気づくことも、褒められて気づくこともある。その両方で接してくれるような人です」。一方的に言うのではなく、理解を示し、寄り添ってくれる。佐倉にとっては、誰よりも恩返しがしたい存在だ。
「2軍監督って、支配下登録するにあたって“推薦”できるような位置じゃないですか。だからこそ絶対に今年支配下になりたいですし、一番に報告もしたいです。その時は、同世代の中でも僕が一番怒られてきたと思うので。『あの時はすみませんでした』って謝りつつ、報告できたらなと思います」
2月28日、日本製紙石巻との練習試合では右翼ネットを揺らす特大の2ランを放った。支配下を勝ち取ることが最高の恩返し。自分自身と斉藤監督のために、美しいアーチを描き続ける。
(竹村岳 / Gaku Takemura)