戦力外直後に「何かを変えなきゃいけない」
「何かを変えたい」。強い意思が表れた行動だった。「来年もダメだったらホークスを辞めなきゃいけないし、野球ができなくなる。誰よりもやらなきゃいけない」。覚悟を口にしたのは、来季から育成選手として再出発する牧原巧汰捕手だ。
シーズン終了後、自らの厳しい立ち位置を理解していた。「周りの球団でもクビの報道が出て、『これは自分だろうな』って」。2020年ドラフト3位で入団して5年、1軍での試合出場はなかった。今オフ、球団から戦力構想外通告を受け、育成契約を打診された。
12月に入ると、牧原巧の姿は連日みずほPayPayドームにあった。「ほぼ毎日です。結果を出せなかったら終わりなので」。そして、戦力外が通知された後、覚悟を持って一歩踏み出した行動を明かした。憧れの先輩・甲斐拓也捕手(巨人)にかけた1本の電話だった――。
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続きの内容は
・斉藤監督が牧原に伝えた「胸に響いたある言葉」
・甲斐との自主トレで牧原が変える「捕手の常識」
・牧原巧汰の胸に秘めた「本当の目標」
「次の自主トレに参加させてください。お願いします」
球団から育成契約を打診され、受け入れることはほぼ決めていた。自分自身を見つめ直す時間を作り、思い立ったのが甲斐への自主トレ志願だった。
「支配下から育成になる。このままじゃだめだ……って。育成から支配下、そしてスーパースターになった甲斐さんのところでやりたい。自分が一番目指している人、尊敬している人のところへ行ってやりたいと思いました」
以前から連絡先を知っており、突然だったが電話で意思を伝えた。電話口で甲斐は「ええよ、一緒にやろう。頑張ろうな」と応じてくれた。「しっかりやらなきゃな」。先輩からの言葉に決意を新たにした。
「自主トレは今までずっと1人でやっていて、自分にストイックになる意味ではいいこともあるんですけど。そういう意味でも『改めて変わらないと』っていう考えもありました」
思い立った「野球はできなくなる」
戦力外構想外を通告された直後は、タマスタ筑後で1人黙々とウエートトレーニングや打撃練習に取り組んだ。周りの選手たちが秋季キャンプを行っている室内練習場で、斉藤和巳2軍監督と交わした言葉が胸に残っている。
「和巳さんには『どういう意識でやったらあれだけ活躍できたのか』とかを聞いたりして。『どういう練習しているの?』とか聞いてもらって、自分の特徴、足りないものを言われて。『長所は長所として持っていていいけど、短所ともしっかり向き合わないとダメだ』という考え方を教わりました。自分をちゃんと見つめ直せたというか」
今季2軍では打率.124と苦しんだ。「もう一から『自分はこれ』というのを1回捨てて、全部再確認してやっています。コンタクト率を上げないといけない。打てなかったら支配下に上がれないというのは自分でもわかっているので」。自分の弱点としっかりと向き合って、本拠地でウエートとバッティングを中心にトレーニングを行っている。
「野球ができなくなる。そう思った時、一番気持ちが変わりました。自分ができる限りはやろうと」。練習量の多さでも知られている甲斐の自主トレ。ホークスの正捕手として長年活躍してきたキャッチャーから全てを吸収してみせる。“ラストチャンス”と位置づける1年に、強い覚悟を持って挑む。
(森大樹 / Daiki Mori)