渡邉陸から「しっかり投げろよ」 安徳駿の変化…うれしかった2か月後の“褒め言葉”

安徳駿(左)、渡邉陸【写真:飯田航平、竹村岳】
安徳駿(左)、渡邉陸【写真:飯田航平、竹村岳】

ドラ3・安徳が振り返る1年目「理想とは程遠い」

「自分が理想として思い描いていた1年目とは、程遠い1年でした。悔しいですし、申し訳ないという気持ちでしたね」。そう振り返ったのは、ルーキーイヤーを終えた安徳駿投手だった。ドラフト3位で入団し、2軍では5試合で1勝0敗、防御率4.40。自分らしい投球ができなかった。

 シーズン終盤の8月下旬から10月上旬にかけての約2か月間は、「出力」をテーマにプログラムを組み、実戦から離れた。そして秋季教育リーグ「みやざきフェニックス・リーグ」で実戦復帰すると、平均球速も大学時代の水準に近い140キロ台中盤をマーク。真っすぐ主体で押せる場面が増えていった。

 23歳にとって、色濃く記憶に残る一戦がある。2軍で唯一の勝利を挙げた7月29日のウエスタン・リーグ、くふうハヤテ戦。「しっかり投げろよ」。渡邉陸捕手から本気の“叱咤”を受けた――。それは、安徳自身がもがき続けた1年間を象徴する出来事でもあった。

会員になると続きをご覧いただけます

続きの内容は

・渡邉陸が安徳に込めた「本気のゲキ」の“返球”が持つ、驚きの真意
・球速が戻った理由…安徳が再開した「大学時代のメニュー」の中身
・あの厳しかった渡邉が、2か月後に語った「うれしい褒め言葉」とは

 2軍では数少ないみずほPayPayドームで行われた同戦。安徳にとって、プロ入り後初となる本拠地での登板だった。2番手でマウンドに上がり、2回1/3を無失点に抑えて“プロ初勝利”を挙げたものの、初めて立つ1軍本拠地のマウンドに特別な緊張感を抱いた。制球に苦しみ、試合後には「それどころじゃなかった」と振り返るほどだった。

 試合中には、バッテリーを組んだ渡邉から本気の“ゲキ”が込められた返球を受けた。『そろそろいい加減にしろよ』と思って強く投げ返しました。同じような球が続いていたので、『ワンバンでいいから、低めに来いよ』というメッセージです」と渡邉。課題に気づき、乗り越えてほしいという思いが込められた1球。安徳は記事を目にして、その思いを知った。

「マウンドでも『しっかり投げろ』と言われましたし。今まであそこまで言われることがなかったので、むしろ言ってもらえてありがたいというか。やばいなという焦りもあったので、ちゃんとやらなきゃという気持ちになりましたね」

 渡邉からの叱咤は強い危機感を抱かせた。一方で、当時の安徳にとって現状以上のパフォーマンスを発揮することが難しいというもどかしさも感じていた。大学時代の出力が戻らない――。人知れず苦悩に陥っていた。

うれしかった渡邉陸の“褒め言葉”

 転機になったのは体づくりをメインに実戦を離れた2か月間だった。「ウエートもたくさんできてフィジカルも強くなりましたし、自分にとって何が大事なのかをいろいろ考える時間にもなりました。すごく良い時間だったと思います」と振り返る。特に大きかったのは、大学時代に取り組んでいた柔軟性を高めるメニューを再び取り入れたことだった。

「大学時代はメニューに組み込まれていて無意識にやっていたので、勝手に体が柔らかくなっていたんです。でもプロに入ってからはそういうメニューがなくなり、実際その重要性もあまり分かっていませんでした」。知らぬ間に体が固くなり、本来のフォームで投げられていなかった。この期間に柔軟メニューを再開すると、体に明確な変化があった。「しなやかに可動域を使って、体全体で投げられるようになったというか。それが個人的には大きかったと思います」。

 2か月間の“トレーニング期間”を経て臨んだフェニックス・リーグ。マウンドに立つ安徳のフォームにはしなやかさが戻り、力強い真っすぐで打者を押し込んでいた。「トレーニングの成果が出て、少しずつ良くなっているなと。少し昔の感覚が戻ってきたと思います」と手応えを口にした。中でもうれしかったのは、あの叱咤をくれた先輩・渡邉からの言葉だった。

「『コントロールも球も良くなったね』って言ってもらって。実際にバッテリーを組んだ時も『球強くなって良くなってるやん。ナイスピッチング』と声をかけてもらえました。あの時は組み立てもできないくらい荒れていたんですけど、少しは成長した姿を見せられたかなと思います」

2年目へ向けて「オフシーズンに鍛えまくって」

 振り返れば、1年目のシーズンは上手くいかないことの連続だった。1月の新人合同自主トレから右肘の違和感で別メニュー調整。4月12日に3軍戦で初登板を果たしたものの、大学4年間で152キロまで到達した球速は140キロ台前半まで落ち込み、打者に簡単に弾き返される場面も目立った。

「あんまり記憶にないですね。不甲斐なさすぎて、記憶を消しに消しまくったので。本当に長いイニングを投げることも、めちゃくちゃ調子が良かったということもなく、中途半端な登板がずっと続いていました。ランナーを溜めて、ポテンヒットを打たれて、(走者を)返してしまうみたいな。同じような試合展開で」

 シーズン最後のフェニックス・リーグでは成長の手応えをつかみ、11月12日からは「アジア・ウインターベースボールリーグ」で武者修行の1か月を過ごす。「気づいたら1年経っていました。『なんで大学時代ほど投げられないんだろう』と悩むこともありました。でもオフシーズンに鍛えまくって、来年は全体的にレベルアップした姿を見せたいです」。ルーキー・安徳駿にとって忘れられない1年になった。来年こそは、上のステージで野球ができるように――。

(森大樹 / Daiki Mori)