失意の2軍降格…中村晃の気遣い「普段は送らない」 山本恵大を救った“1通のLINE”

中村晃(左)と山本恵大【写真:加治屋友輝】
中村晃(左)と山本恵大【写真:加治屋友輝】

山本を支えた1つの“言葉”

 思いがけない1通のメッセージがシーズンを戦い抜く大きな励みになった。「もう一度頑張ろうという原動力に本当になりました」。こう振り返ったのは、今年4月に支配下登録を果たし、1軍で25試合の出場を果たした山本恵大外野手だ。

 シーズン序盤、チームは外野手の離脱が相次いだ。近藤健介外野手が腰の手術、柳田悠岐外野手が右脛骨骨挫傷で長期のリハビリを余儀なくされた。そんな中、2軍で打率.486と驚異的な数字を残していた山本に白羽の矢が立った。

 4月12日に1軍に昇格した26歳。しかし、1軍の壁は厚く、出場4試合で11打席無安打と結果を残せないまま、26日に出場選手登録を抹消された。

 失意の中にいた降格の翌日、中村晃外野手から1通のLINEが届いた。そのメッセージが、2025年シーズンを振り返ると、前を向き続けることができたひとつの原動力になっていたという――。

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中村晃が山本恵大に送った、秘められたLINE
中村晃が語る普段はしない行動の裏にあった「真意」
山本恵大の活躍を支えた、先輩からの「言葉」の力

「俺も2軍で打って、こうやって1軍で打てなくなることもあった。1軍と2軍では緊張感も違う。でもその中でも、結果を出さないといけないから、どうやって結果を出していくかは少し考えながら2軍でやっていこう。すごい良い期間だったと思うから、これからがスタートだよ」

 大先輩から届いたこの言葉に驚きを隠せなかった。シーズンを終えた今でも、強烈な印象は消えることはない。「めちゃくちゃ嬉しかったですし、『もう一度頑張ろう』と心から思えました」。

 1軍で過ごした14日間で、26歳の心に最も強く残ったのは、大観衆が生み出す独特の雰囲気だった。初めて味わうプレッシャーの中で、平常心を保つ難しさを痛感していた。

「手も足も出なかった1度目の昇格で、じゃあどう2軍で過ごそうかな、どう頑張ろうかな、という時に連絡を頂いたので。しかも『山本のLINE知ってる?』って誰かに聞いてくれた手間もあるじゃないですか、シーズン中にもかかわらず」

 中村の1つ1つの気遣いが、心に深く染みた。

中村晃「普段はあんな風に…」

 中村晃も当時のことをこう明かす。「普段は送らないですよ。でも自分も同じような経験をしたことがあったので」。かつて自身が味わった悔しさ。今度は自分が後輩に経験を伝える番だと、自然と体が動いたのだろう。山本には下を向いてほしくなかった。

 初めて経験した1軍の舞台。山本は改めて、中村の言葉のありがたみを口にする。

「緊張感もすごかったですし、右も左もわからない状態でした。もしあのままだったら、上手くいかなくて『うわー』ってなっていたと思うんです。経験したことのない壁にぶつかっていた時だったので。偉大な先輩が気にかけてくれたことが本当に励みになりました」

 その後、山本はファームで調整を続け、打率.378と好成績を維持。7月3日に2度目の昇格を果たすと、7月15日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)ではプロ初本塁打となる逆転3ランを放った。「2回目の昇格で結果が出たのは、晃さんのあのLINEのおかげでもあると思います。本当に感謝しています」。今もその言葉を大切に胸に刻んでいる。

 酸いも甘いも味わった支配下1年目。チームの5年ぶりとなる日本一は2軍で見届けることとなった。「最後、やっぱりあのビールかけに自分もいたいと思いました」。再び1軍の舞台で輝くために。山本の目は前だけを見据えていた――。

(森大樹 / Daiki Mori)