大津が振り返る今シーズン「あの期間はめっちゃ良かった」
苦しい時間を経験したからこそ、一気に駆け上がることができた。「絶対に点を与えないという強い気持ちを持ってマウンドに上がりました。自分らしい投球ができてよかったです」。こう胸を張って振り返ったのは大津亮介投手だ。阪神との日本シリーズ第4戦に先発し、5回3安打無失点。勝利投手となり、チームの5年ぶり日本一に大きく貢献した。
先発転向2年目の今季。5月までに3度の先発機会があったが、勝利を挙げることができずに同17日に登録抹消された。約2か月もの2軍生活を経て、7月21日の西武戦(ベルーナドーム)で6回1失点と好投。今季初勝利を挙げると、それ以降は6勝1敗、防御率1.37という驚異的な成績を収め、シーズン終盤はチームの重要なピースとなった。
「あの(2軍での)期間はめっちゃ良かったです。長いプロ野球人生を考える中で、必要な2か月だったのかなと思います」。悔しさを味わった前半戦――。この2か月間で、右腕にどんな変化が起きたのか。有原航平投手をはじめとする、周りの先発投手陣からの言葉があった。
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続きの内容は
・大津投手の心を解き放った「有原航平の言葉」とは?
・2軍で「自分を知る」きっかけとなった、意外な真実
・劇的覚醒を遂げた右腕を支えた「秘めたる決意」
「序盤は本当にモヤモヤしていて……。自分の実力不足もありましたし、悩みましたね。有原さんや色々な方に話を聞いてもらいました」。シーズン序盤の3登板では、いずれも5回をもたずに途中降板。1軍で活躍するためには何が足りないのか。改めて到達した答えは、首脳陣からの信頼、そして技術以前の“心の持ちよう”だった。
ファームでの2か月を、右腕は「自分を深く知れた時間」と表現した。「結局、信頼が足りないのは、イコール実力がない。自分の足りないところが全部わかりましたね」。2軍降格後、投手練習では先発投手陣に自分の迷いや不安を打ち明けていた。「もう有原さんには、色々なところでお世話になりました。技術的なことも、精神的なところも全部教えてもらいましたね」。話を聞く中で辿り着いた考え方があった。
「結局、『今年が全てじゃない。この1年でプロ野球人生が終わるわけじゃない』っていうのを自分の中で言い聞かせていました」。焦りを捨て、長い目で自分を見つめて今やれることをやる。悔しさを、日々の練習へのエネルギーに変えていった。「どんなにすごいスーパースターのピッチャーでも絶対こういう苦しい経験をして大きくなっているなって、(話を聞いて)改めて思ったので。そういう捉え方、考え方にして、その悔しさを練習にぶつけていましたね」。
悔しい日々を越え「もう絶対2軍に落ちたくない」
もちろん技術的なことも見直す時間になった。「2軍ではハイスピードカメラを使ったりして、回転軸とかを詳しく見ることができました。投球面に関してもフォークとか、決め球が薄かったっていうのがありました。上で投げていると、分析する時間がないんですけど、すごく自分と向き合える時間でした」。生命線である変化球の軌道や回転数を徹底的に確認し、ボールの精度も向上させることができた。
「ファームから1軍に戻る時、もう全部やれることをやって戻れたので。上で不安に思うことはなかったです。『自分の投球をすれば、絶対に抑えられる』と思っていたので」。その言葉通り、今季初勝利を挙げてからは“別人級”の投球を見せ続けた。シーズン終盤の熾烈な優勝争いの中で、誰もが認める柱へと成長を遂げた。
「もう絶対2軍に落ちたくないので。その1球の重みというか、もう意地でも点を取られないようにっていう気持ちで投げていました」。その気迫は、クライマックスシリーズ、そして日本シリーズという最高峰の舞台でも揺るがなかった。「ここでまた先発ローテを外れていたら、来年、再来年も絶対外れるような順番になってしまうので」。
悔しい日々を越えて、また1つ大きなピッチャーになった。「まだ完成形というわけでもないんですけど、少しは近づけたかなと思います」。来シーズンはもっと成長した姿が見られるように――。
(森大樹 / Daiki Mori)