「捨てたくなかった」1軍のマウンド 大山凌の今…苦悩の3か月「自分にむかつく」

大山凌【写真:森大樹】
大山凌【写真:森大樹】

大山は8月3日の登録抹消以降は1軍登板なし

「この1か月と言わず、3か月ぐらいですかね。すごく苦しかったです」。チームが5年ぶりの日本一に輝いた裏で、右腕は静かに自分自身と向き合い続けた。秋季教育リーグ「みやざきフェニックス・リーグ」を終えた2年目の大山凌投手は、気持ちを吐露した。

 今季は開幕1軍入りを果たし、26試合に登板して1勝1敗1セーブ、防御率2.35と様々な場面で腕を振った。8月3日に登録抹消となり、小久保裕紀監督は「絶対に必要な戦力なので。こっち(1軍)で復調を待つというよりは、投げられる状態にしてほしい」と、あくまで前向きな意味での調整だと強調していた。

 しかし、そこから長く苦しい3か月を過ごした。復調に向けて一度実戦から離れる選択肢もあった中、試合で投げ続けたのは「捨てたくなかった」ものがあるからだった――。苦しみ続けた日々を過ごし、見えてきた“一筋の光”とは?

「ここ最近になるまではずっと、1球たりとも納得のいく球が投げられていなかった。真っすぐって、みんなが投げられるじゃないですか。でも、その球をずっと気持ちの悪いまま投げていたので苦しかったです」

 この3か月は直球の制球に苦しんだ。ボールのコントロールはもちろん、体のコントロールが崩れて投手の生命線ともいえる真っすぐがしっくりこない。自分のイメージと実際の動きが噛み合わず、ボールが抜けてしまう時期が続いた。

「2軍に落ちる前も、おかしいのは真っすぐだけだったんですよね。変化球は普通に投げられていたので。何回か『おっ』てなる時もありましたけど、中々感覚をつかみきれなくて……」

「そのチャンスを捨てたくないからこそ…」

 もちろん、1軍のマウンドに戻りたい気持ちは常に持って登録抹消以降は向き合ってきた。

「試合に投げながら調整するか、試合を1度離れて練習に専念するか。自分の中では1軍戻れるかもしれないというチャンスは捨てきれなかった。そのチャンスを捨てたくないからこそ、試合で投げさせてもらっていたんですけど。でもいざこんな結果になって、むかつくっすね、自分に」

 昨季もシーズン最終盤の9月30日に登録抹消となり、クライマックスシリーズ、日本シリーズで投げることができなかった。「今年は手応えもあったんですよね。これだったら1年間投げ続けられるだろうなというものもあった。でもそう簡単じゃなかったです」。2年連続でチームの最も重要な時期にいられない悔しさ。日本シリーズの40人枠から外れ、今年もまた同じ壁にぶつかった。

「最後の最後、(シーズンが)締まる時にその場にいられないのが悔しいです。少しは(チームに)貢献できている気はするんですけど、それがあるが故に余計に悔しいんですよね」

向き合った課題「恥も何もかも捨てて」

 右腕が欲していたのは、不調の時に立ち返れる“場所”だった。「これさえできてれば大丈夫だっていう何か」と語るものを探し出すことこそが最大のテーマだった。課題と向き合った中、フェニックス・リーグでは3連続四球と苦しむ試合もあった。

「本当だったら多分こんなピッチングをしていたら『ちゃんと投げられるように練習してから来い』っていうのが、普通なのかもしれない。それでも投げさせてもらえている。恥も何もかも捨てて、正面から向き合っていかないと、この課題が解決するのがどんどん先になってしまうので」

 見据えていたのは、目先の1試合ではなく、その先にある自身の野球人生だった。「ごまかしつつやれば、ある程度は結果も残せると思うんです。でもそれだと長い期間で見た時に、自分として成長できる幅がかなり変わると思うので」。

苦しかった3か月「色々ことを試して…」

 そんな中、手応えを掴んだ瞬間があった。きっかけはフェニックス・リーグの終盤に見つかった。「上手く使えていなかった」という投球時の背中への意識を変えた。「多分全体的な体のバランスが合ってきて、自分の中では無理なくスムーズに投げられているので、一番良かった」。そう語る表情には、確かな手応えと自信が戻っていた。斉藤和巳監督も「ここ最近の中では良かったね。ブルペンも途中覗いたりしていたけど、結構いい感じで投げているんじゃないかなって感じはしたね」と右腕の姿に復調の気配を口にした。

「色々なことを試して、挑戦して。繰り返してきた結果、今ちょっとずつ自分の中で以前よりも投げていてしっくりきているので。すごく自分にとっては苦しい時間ではあったんですけど、有意義でした。来年戦力になるための良い時間だったのかなと思っています」

 チームが一番大事な時に腕を振りたかった。その気持ちに変わりはない。それでもこの苦しかった3か月間は、大山凌の未来を明るくするに違いない。

(森大樹 / Daiki Mori)