
今季のNPBで最多の72試合登板…“日本一働いた”右腕の矜持
ホークスは阪神との日本シリーズを制し、5年ぶりの日本一を掴み取りました。杉山一樹投手は自身初となるセーブ王のタイトルを獲得したレギュラーシーズンに続き、ポストシーズンでも大車輪の活躍を見せました。“日本一働いた”右腕はなぜフル回転に耐えられたのか。そして、あえて口にした“苦言”――。激動の1年を振り返ってもらいました。
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今シーズン、NPBで最もマウンドに立った男になった。レギュラーシーズンではパ・リーグ最多となる65試合に登板し、CSファイナルで3試合、日本シリーズでは4試合のマウンドに上がった。日本一を決めた30日の第5戦(甲子園)では2イニングをピシャリ。ポストシーズンは7試合計8イニングを無失点と圧倒的な存在感を示した。
1年間で積み重ねた登板数は「72」に上った。それでも杉山は涼しい表情でマウンドに上がり続けた。「身体は全然元気でしたね。(登板した)次の日に肩が重いとかも全くなかったですし、みんなそんなもんでしょう」。あっけらかんとした語り口には、積み重ねてきたルーティンへの絶対的な自信があった。「だから2軍に落ちるんです」――。妥協なき日々を送ってきたからこそ感じた“違和感”とは。
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続きの内容は
・「鉄腕』が明かす2軍落ちの共通点
・杉山流「肉と米」独自の食事論
・ウエートの“持論”「もったいない」
日々のケアはアイシングのみも「疲れは全然ない」
「疲れは全然ないですね。毎日のトレーニングの方がきついんで」。日々のケアはアイシング程度だという右腕。入団以降からウエートトレーニングを続けてきたが、そこに対するモチベーションは「そもそもない」という。
「『今日もトレーニングかー』とか、『ちょっとキツいからやめよう』とかいうレベルのモチベーションはないです。いいパフォーマンスをするためには絶対に必要なものっていう捉え方をしているので。もう歯を磨くくらいの感覚ですよね」
ボディービルダーのような肉体は、圧倒的な投球を生み出す“エンジン”だ。現代の野球ではもはや不可欠とも言えるウエートトレーニング。「それをやっていない人の方が疲れていると思うんです」。そう口にした杉山が周囲に感じたのは、ある“共通点”だった。
「トレーニングをしていない人の方が2軍に行っているので。僕は去年と今年の2年間、1軍でやってきて見てきたのは、2軍に行く人ほどトレーニングをしないし、疲れるって言うし、弱い。それを直接言ったこともありますよ」
食事にも独自の理論「とにかく肉と米です」
こちらがドキリとさせられる言葉を、杉山は平然と言い切った。強烈な自負と責任感があるからこその言葉だった。「やっぱりみんなが勝つ、優勝するっていう目標に向かっている中で、もちろん僕がダメな時もあります。そういった状況をカバーしあうってなった時に、疲れたなんて言ってられないので」。常に全力を出し合うチームメートがいるからこそ、杉山も大きな飛躍を遂げられた。
シーズン中は球場入りの1時間ほど前まで睡眠を取り、遠征のため移動する際も極力寝るようにするなど、体調管理を徹底した。食事に関しても油ものを一切取らず、ビタミン類はサプリメントで補った。「とにかく肉と米です。野菜を食べるメリットを考えたら、別にサプリでも変わらないなって。それだったらもっと他の栄養素を取りたいですね」。些細なことにも真剣に向き合い、連投に耐えられる体を作ってきた。
ウエートトレーニングにも“持論”がある。「オフに体重をガンと上げても、シーズン中にだんだんと落ちてきて、結局スタートと同じくらいになるのが嫌。だからトレーニングをやり続けたいし、それじゃないと意味ないじゃないですか。何のために体重を上げるのかといえば、パフォーマンスをよくするためなので。結局またゼロからだったら成長がないし、もったいないです」。
フィジカル面での強さと精神的な成熟がかみ合い、日本一チームのクローザーへと変貌を遂げた27歳。制球難で苦しんでいた過去の姿はもうない。常に進化を求め、努力を止めない男の今後は、さらに輝きを増すだろう。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)