2軍調整中、板東が見せていた“姿”
「結果が良い日もあるけど、物足りなさを感じる状態が昨年からずっと続いているので。本人が一番もどかしいだろうなという感じで見ています」。斉藤和巳3軍監督は、右腕の現状をどこか歯がゆい表情で語った。
板東湧梧投手は2023年9月30日の日本ハム戦以来、約2年間にわたって1軍登板がない。今年もレギュラーシーズンを終えると、「みやざきフェニックス・リーグ」で登板を重ねている。10月21日のオリックス戦では先発登板し、2回1安打無失点の投球を見せた。
シーズン中は、ファーム施設「タマスタ筑後」で黙々と調整を続ける背番号50の姿があった。「彼の愚直な頑張りを自分も見てきたのでね」。斉藤監督もこう語るように、練習場で努力を重ねる姿は誰もが知っている。チームスタッフが証言した苦悩の日々の“裏側”――。ロッカールームで1人戦う姿があった。
会員になると続きをご覧いただけます
続きの内容は
・板東投手がロッカーで続けた「行動」とは
・小川ブルペン捕手が驚いた「プロの姿」
・誰もが願う板東投手の「報われる日」
「僕がいつも最後、ピッチャーの練習状況を確認して帰るんですけど、毎回板東さんが残っているんです。『もう上がって大丈夫ですか?』って声をかけると、『あ、大丈夫よ、もうキャッチャーに受けてもらうことはないから』って。本当にいつも最後まで残っているのが板東さんでした。ずっと遅くまで練習してる姿が印象的です」
こう明かしたのは、2024年にソフトバンクに入団し、板東のボールを2年間受け続けてきた小川真希2軍ブルペン捕手だった。練習の裏側で目の当たりにしたのは、自身の投球をとことん突き詰める、あまりにもストイックな右腕の姿だった。
「去年から一番遅くまで残って、ずっと鏡で投球モーションを確認したりしていました。絶対に体がきつい時もあると思うんですけど、それを1年間通してずっと続けるストイックさ。見ていて本当にすごいなって感じました」
ブルペン捕手が見た衝撃の光景…「改めて考えさせられました」
板東は今季、2軍でチーム最多の9勝を記録した。中々1軍から声がかからず、迎えたシーズン終盤。「考えても仕方がない。目の前のことに全力で取り組もうと思っています」と、次の登板のことを考えて前を向き続けてきた。
野球への実直な向き合い方を象徴する光景があったという。午前中で終わる練習日。選手が1人、また1人と帰り支度を終え、室内練習場からは人の気配も消えた時間。小川ブルペン捕手はロッカールームで右腕の姿を見つけた。
「ご飯を食べて、シャワーを浴びて帰ろうと思ったら、2軍の選手はもう(他には)誰もいないんですよ。最後にロッカーに誰かいないかなと確認しに行ったら、板東さんが狭いロッカーで(投球)モーションの確認を黙々としていて。お風呂でも1回そういう姿を見かけたりしました」
自身の投球を追求し、常に野球のことだけを考える29歳。「本当にもう、プロフェッショナルだなと。自分も改めて考えさせられました」。その姿に驚きを隠せなかった。
「だからこそ、そういう選手がなんとか結果を出して報われてほしいっていう気持ちがすごくあって。やっぱりそういう板東さんの人柄を見ていると、なんとか寄り添って、何かできることはないかなって考えたくなるんです」
2年間、1軍のマウンドから遠ざかっている現実。それでも、その裏側には誰にも負けないほどの努力と探求心があった。監督も、チームスタッフも、誰もが「報われてほしい」と願う右腕の姿。板東湧梧の真っすぐな努力が身を結び、再び1軍のマウンドで光り輝く日を誰もが待っている。
(森大樹 / Daiki Mori)