柳田弾に今宮と中村がハイタッチした理由 「本当に打つので」…裏で交わされた“会話”

中村晃、今宮健太、柳田悠岐【写真:加治屋友輝】
中村晃、今宮健太、柳田悠岐【写真:加治屋友輝】

小久保監督も万感「あそこで打つのが…」

 百戦錬磨の主力たちをも興奮のるつぼに誘うアーチだった。16日に行われた日本ハムとのクライマックスシリーズ第2戦(みずほPayPayドーム)。両チーム無得点のまま迎えた8回だった。走者を2人置いた場面で柳田悠岐外野手の打球は左翼方向へ高々と上がり、大歓声に乗ってスタンドまで届いた。

 一斉にベンチを飛び出したナインの喜びぶりが、この一発の大きさを物語っていた。「あそこで打つのがスーパースターですね」。短い言葉で万感の思いを表した小久保裕紀監督。ここぞの場面で最高の結果を残せるのが、柳田悠岐という男だ。

 指揮官と同様に「スーパースター」と称したのが、今宮健太内野手と周東佑京内野手だった。4月中旬に負った右脛骨の骨挫傷の影響で、5か月近くものリハビリ生活を強いられた柳田が見せていた姿――。同じ時間を過ごした2人だからこそ感じた“凄み”とは。

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続きの内容は

・今宮が明かす中村との会話
・柳田が苦境で見せた“強さ”
・周東が語る柳田の変わらぬ姿

「(中村)晃さんと『ホームランを打ってくれたらいいな』って話をしていたら、本当に打つので。やっぱりああいう時に打ちますよね、あの人は。スーパースターだなと思いました。うらやましいですよね」

 今宮が明かしたのは、ベンチで交わしていた中村との会話だった。アーチが飛び出た直後、2人は真っ先にハイタッチを交わした。柳田を含め、長年チームを先頭でけん引し続けてきた3人だからこそ分かち合える、最高の喜びだった。

今宮が明かした柳田の“強さ”…「一切なかった」

 柳田は右脛骨の骨挫傷を負った直後は歩くこともままならず、「人生で1番痛みを感じた」と振り返るほどの重傷だった。出口の見えない日々を過ごす姿を、同じリハビリ組で見ていたのが今宮だった。

「正直、回復もなかなか思った通りにしていなかったと思うんですよね。それでも、やるべきことを毎日やっていたし、『もう無理や』っていう姿は一切なかったです。だからこそ、なおさら『このポストシーズンはなんとかしたい』っていう気持ちが絶対あると思いますし、それは僕も同じなので。そういう思いがやっぱり(結果に)つながってくるのかなとは思います」

 今宮が口にしたのは、画面越しでは伝わりにくい柳田の素顔だった。「あんな感じですけど、実際はしっかりと色んなことを考えられているので。見習うところももちろんあります。(中村)晃さんともまた違うタイプなので。本当にみんなから愛されるキャラクターですよね」。ともにチームを支えてきた戦友が放った一発だったからこそ、自らのことのように喜んだ。

「いやー、打ってくれと思っていましたけど。本当にスーパースターです。それ以外の言葉はないですね」。興奮冷めやらぬ様子で振り返ったのは周東だった。「(ベンチの)中で準備していたので、打った瞬間は見ていなかったんですけど、あの歓声と映像を見て、急いでグラウンドに出ました」。その言葉通り、ダイヤモンドを一周した柳田を“最前列”で迎えたのは背番号23だった。

 周東も柳田の背中を見ながらリハビリに励んでいた。「本当に何も変わらなかったので。痛みも長引いたと聞いてましたし、先が見えない毎日だったと思いますけど。それでも変わらないのが本当にすごいなと思います」。ネガティブな感情は一切見せず、常に明るい先輩の姿は目に焼き付いている。

 故障に苦しみながら、ここぞの大舞台でチームに笑顔をもたらした柳田のアーチ。ベテランも若手も一丸となったホークスが昨年のリベンジを果たす舞台に立つまで、あと1勝だ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)