8月31日のロッテ戦では痛恨の走塁ミス
頭が真っ白になったあの瞬間を忘れたことはない。1か月半ぶりの1軍昇格に、準備は万端だ。「(期待されているのは)守備と走塁だと思うので、そこからしっかりとやっていきたいです」。15日から始まるクライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージ。全体練習に合流した川村友斗外野手が口にしたのは、ファームで目にした“偉大な先輩”の背中だった。
4年目の今季、1軍のレギュラーシーズンに15試合出場した。忘れられないミスを犯してしまったのは、8月31日のロッテ戦(ZOZOマリン)だった。8回2死一、二塁から一走の代走として出場すると、柳町達外野手の中前適時打で1点差に迫った。川村は一気に三塁を狙ったが、惜しくもタッチアウトに。チームも敗れ、小久保裕紀監督も「この時期にこんな野球をしていて恥ずかしい。準備不足です」と厳しく言及した。
「絶対にしてはいけないことをしてしまいました」。9月2日に登録抹消となり、2軍に降格。悔しさを忘れることなく、1か月半を過ごしてきた。ファームで見せていたのは、これまでとは明らかに違った姿。柳田悠岐外野手、今宮健太内野手、周東佑京内野手……。多くの先輩たちから受けてきた影響を、川村なりに行動で表現してきた。
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続きの内容は
・川村が明かす、2軍での覚悟
・柳田が示した、若鷹へ送る背中
・周東が語る、失敗後の振る舞い
ファームで見せていたのは明らかに変わった姿
「ファームでは守備と走塁からちゃんとできるように取り組んできました。ロッテ戦のことをそこまで引きずっていたわけではないんですけど、ああいうプレーで(2軍に)落ちてダラダラしていたら終わりだと思っていたので。無理矢理にでもキビキビしようと思っていたところはあります」
9月2日の心境は今でもよく覚えている。本拠地を訪れると、自分と入れ替わって昇格を果たした笹川吉康外野手の姿を目にした。「それで『抹消される』って思いました」。真っすぐに受け止めた首脳陣の判断。胸中は複雑だったが、胸を張って試合前練習を過ごした。「落ち込みはしましたけど、その雰囲気は出したくなかったです。カッコ悪いじゃないですか。反省するところはしつつ、(周囲には)そう感じられないように意識はしました」と振り返った。
その後、ファームでの再調整が始まった。試合前練習でも、ポジションまでダッシュで向かう。優しい笑顔がトレードマークの26歳だが、緊張感を忘れることなく、常に引き締まった表情が印象的だった。「もともと『なんで打てなかったんだろう』って考え込んじゃうタイプなので」。集中していれば、自然と口数も減る。そんな中、松山秀明2軍監督の言葉が胸に残った。
「ギーさんがまだ2軍にいた時で、『凡退した後でも声を出しているやろ』って。それは2軍の全体ミーティングでも言われていたので。僕はできていないかもしれないですけど、意識していました」
9月上旬の阪神2軍戦で胸に響いた松山監督の言葉
指揮官が名前を挙げて称賛したのは、9月上旬のウエスタン・阪神戦(日鉄鋼板SGLスタジアム)で柳田が見せた姿だった。試合中にベンチで誰よりも声を張り上げた背番号9。右脛骨の骨挫傷から復活を目指す中、示した背中でも若鷹のお手本となっていた。9月下旬になると、次は今宮が実戦復帰。2軍の最終戦、リーグ優勝をかけた28日の中日戦(ナゴヤ球場)では自ら声出しに名乗り出て「こんな時こそ楽しんでいこう」とナインを鼓舞した。目に焼き付けたチームリーダーの背中。川村にとっても貴重な財産となった。
「今宮さんと一緒にやっていた時も、ギーさんとはまた違った空気が締まる感じがありました。中日戦での声出しもグッときましたし、カッコよかったです」
2024年は1軍で88試合に出場。先輩たちとプレーをともにする中で、胸に刻まれているのが周東の存在だ。「打てなかった次の日も明るくされているので。『え、そんな気にしていないんですか』ってくらい。ロッカーが一緒だったので、すごいなと思いながら見ていたのは覚えています」。幕張で走塁ミスをした後も、真っ先に声をかけてくれたのは選手会長だった。全ての行動がチームのため。苦い思いをしてきた分だけ、川村も胸を張れるようになった。
「去年は1軍にいさせてもらって、その流れでCSにも入れたんですけど。すごく緊張しています。しっかり準備をして、とにかく勝ちに貢献できるようにやっていきたいです」。犯したミスは確かに大きかったが、何倍もたくましくなって帰ってきた。負けられない短期決戦。足元を見つめる川村友斗が、1軍を救うピースになる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)