来季の契約を結ばない旨を通達されたと発表
小久保裕紀監督から、最高の褒め言葉を授かった。「その性格は、絶対に変えるなよ」――。惜しくも“支配下”という形では報われなかったが、財産ばかりの6年間だった。ソフトバンクは7日、育成の勝連大稀内野手に来季の契約を結ばない旨を通達した。育成選手にとっては異例とも言える6年を福岡で過ごした24歳は「ホークスでの日々に悔いはないです」と感謝の思いを口にした。
2019年育成ドラフト4位で沖縄・興南高からプロ入り。オリックスの宮城大弥投手は高校時代のチームメートだった。安定した守備力が最大の持ち味で、今季はウエスタン・リーグに25試合出場。打率.246、0本塁打、4打点という成績だった。3年目を終えれば1度自由契約になる育成選手にとって、今季は異例の6年目を迎えていた。
どんな時も最後までボールを拾い、丁寧にグラウンド整備をする。自分よりも他人を優先できる優しい勝連の人間性は、指揮官にも伝わっていた。2022年から小久保監督が2軍で指揮を執っていた2年間。タマスタ筑後の寮内で顔を合わせると、はっきりとした口調で内面を褒められた。
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続きの内容は
・小久保監督が贈った、勝連への「金言」とは
・東浜巨が明かす、勝連の「意外な素顔」
・育成6年、愛され続けた「真の理由」
“あと一歩”で掴めなかった支配下…指揮官がかけた言葉
「支配下に上がれなかった時に呼ばれたんです。悔しかったんですけど『今支配下に上がっても、70人いるならその中でお前は一番下になる。悔しいかもしれないけど、それだけ(周囲や球団から)見られているっていうことでもある。まだ20代前半だろ? お前のこの性格は絶対に変えるな。態度を変えずにいれば、必ず周りの人が助けてくれるから』って言われたことはあります」
2桁の背番号を“あと一歩”で掴めず、小久保監督から直接声をかけられた。今回は報われなかったが、変わらない姿で野球に取り組んでほしい。最高の“褒め言葉”は、今も胸に残る大切な思い出だ。自身の性格について「あんまり意識したことはないですね。『良くしよう』とか思っているわけじゃないですけど、いつか自分に返ってくるかもしれない。穏やかには過ごしてきました」と照れ笑いしながら謙遜した。
2軍時代に小久保監督は脱いだスリッパを並べる、ペットボトルを捨てるなど、1人の人間として基本的なことを選手に伝えてきた。勝連にとっては、高校時代に叩き込まれたことでもある。「そうしないと気が済まないんです。公共施設での行動とかは特に注意していました」。純粋であるがゆえに、かつては目にしたゴミを“なんでも捨てよう”としていた。「(衛生的に)汚い可能性だとか、場所や周りは見るようになりましたね」。過去の指導者から教えられてきたことを、真っすぐに守り続けてきた。
6年間、支配下枠を争っていた。“ガツガツさ”を求められる育成の立場だ。「道具に当たるのはダメなんですけど、悔しさをそれくらい表現してもいいんじゃないかと言われたこともあります。でもやっぱり、自分の性格的にはうまくいかなかったです」。熱い気持ちは表現するのではなく、胸の内に秘めて戦うのが自分のスタイル。「僕の弱点でもある」と認めながらも「生き方は変えたくなかった。それで支配下になれたら最高だなと思っていました」。理想像を追いかけ続けたのだから、後悔はない。
東浜巨に伝えた現役続行の意向…先輩の答えは?
10月7日、球団事務所で戦力構想外の通告を受けた後、勝連はグラウンドへ。投手練習に顔を出すと、同郷の東浜巨投手に挨拶に向かった。「野球、どうするの?」。現役続行の意向を伝えると「『そうした方がいいよ。必ず道はあると思うから、なにかあったら連絡してこいよ』って言ってもらいました。自分よりも長く野球をされていて、人脈も広い巨さんからそう言われると心強かったです」。握手の感触は絶対に忘れない。先輩たちが手を差し伸べてくれるのは、勝連が示してきた人間性に他ならなかった。
東浜にとっても、目をかけてきた後輩の1人だった。年末、沖縄で野球教室を開こうとした時、勝連にも声をかけた。「忙しいタイミングだったと思うんですけど、嫌な顔1つせずに来てくれました」。自ら食事にも誘い、気を遣える優しさは間近で見守ってきた。「だから6年もいられたんだろうし、純粋に取り組む姿っていうのは、いろんな人が知っているんじゃないですか? これからの人生の方が長いですし、彼のままでいれば、また周りが助けてくれると思います」。頬を緩めて語る35歳もまた、勝連に厚い信頼を寄せていた。
勝連が来季の戦力構想外となった一報を知り、小久保監督も「この世界は人材ですからね。あの姿勢なら、成功者になれる可能性はあると思いますよ」とエールを送った。「本当にありがとうございます。お世話になりました」と頭を下げた勝連。ホークスで6年間を過ごした若鷹はたくさんの人に愛され、どこまでも謙虚だった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)