首脳陣が目を細めた代走での何気ない行動
試合の中で生まれたわずか「40秒」の間に、緒方理貢外野手の“神髄”が見えた。9月30日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。その3日前にリーグ連覇を決めたホークスにとっては“消化試合”ともいえる一戦で27歳が見せた姿からは、“その先”への強い思いが感じられた。
場面は1点を追う8回だった。1死二、三塁で、二走の柳田悠岐外野手に代わって緒方がピンチランナーとして起用された。2死後、柳町達外野手が四球を選んで満塁となったところで、日本ハムベンチはタイムを取った。マウンドにできた輪が解けるまで、およそ40秒。わずかな時間で緒方は二塁ベース上から三塁までのダッシュを繰り返した。
結果的にチームはこのチャンスをものにすることができず、試合も1点差のまま敗れた。緒方の何気ない行動がフィーチャーされることはなかったが、首脳陣はその姿に目を細めていた。「あの気持ちは、俺も見ていてすごく感じるよね」。伝わってきた思いとは――。
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続きの内容は
・緒方理貢が明かす、連覇の裏の苦悩
・大西コーチが語る、緒方の「真価」
・日本一への強い思いを語る理由
「自分が出て行くのがきつい場面だということは、よく理解してるからね。(ホームに)返ってくれば同点や逆転といったケースで、ここ一番のランナーで行っているわけだから。それはもう、足が回らなかったりとかいう失敗が許されない。ちょっとでも時間があったら走っておきたいっていうのは、大事なところで行く怖さも知っているし、準備の大切さも知っているから。あの気持ちは、俺も見ていてすごく感じるよね」
そう口にしたのは大西崇之外野守備走塁兼作戦コーチだった。常に戦況を把握し、最善の準備を怠らない27歳の走塁で勝利をもぎ取った試合は何度もあった。極限のプレッシャーと戦い続ける苦しさは、大西コーチもかつて経験したものだった。
問われる姿勢「そういうときほどしっかりせなあかん」
「俺も現役時代に緒方みたいな役割をやっていたけど、きょうみたいな消化試合だったり、大量点差がついた試合で出て行くのが一番嫌だった。レギュラーを休ませるために出るわけじゃないですか。そういう時ほど一番しっかりせなあかんっていうね」。気が抜けそうな状況ほど、集中力を高めてプレーできるか――。ベンチからの目は、常に選手の“内側”を見つめている。
緒方自身もタイム中の行動について、さも当然と言わんばかりの表情だった。「消化試合とか全く関係ないので。1試合1試合、全力を尽くすだけです」。そう語るのには理由がある。昨季はレギュラーシーズンを1軍で完走したが、CSや日本シリーズでは安打や盗塁、得点を記録することはできなかった。
「もちろん任されたところでしっかりやるっていうのが僕の仕事なので。自分が試合に出て、チームのために活躍したいっていう思いはあります。日本一になりたいっていうのはずっと思っているので」
リーグ連覇を決めた9月27日の試合後、ビールかけで感じたのは喜びよりも達成感だった。「今年の方が自分的には疲れました。去年はもう圧倒的(な優勝)だったので。精神的なものが違うというか。やっと終わったっていうのはあるんですけど、もうその瞬間から次に向けて。(小久保裕紀)監督も言っていましたけど、今がアピールの時間なので。頭を切り替えてやっています」。
どんな場面でも全力を出し切る大切さは、今シーズン途中で登録抹消された際に改めて痛感したことだ。自らの仕事を全うしたうえで、昨季取り逃した日本一を奪いに行く。それが実現した時、心から笑うことができる。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)