笹川が1軍登録された柳田に代わり抹消となった
試合開始の30分前。柳田悠岐外野手が164日ぶりに1軍復帰し、「2番・DH」のスタメン発表に湧く本拠地・みずほPayPayドーム――。その裏で足早に1人の選手が球場を後にした。22日、柳田の代わりに出場登録を抹消された笹川吉康外野手だった。
前日には走塁ミスで悔しい経験をしたばかりだった。21日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)、1点差に迫った9回1死二塁の場面。柳町達外野手が放った大飛球を、左翼手の中川がフェンスに激突しながら好捕。三塁を回っていた二塁走者の笹川は帰塁が間に合わず、試合終了となった。
2日に1軍登録されると、10試合に出場し、今季初アーチを含む打率.250、8打点と存在感を見せ始めていた。笹川自身はこの抹消をどう受け止めたのか――。試合開始2時間半前に告げられた2軍降格。監督室で小久保裕紀監督からかけられた言葉とは。
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続きの内容は
・笹川選手が明かす、2軍降格の「理由」とは?
・小久保監督が笹川選手にかけた「次への言葉」の真意
・メンタルコーチが笹川選手を救った「意外な助言」の中身
「『昨日のきょうですけど、別に昨日の(走塁の)ことは全く関係していない。チームの戦略的に』と言われました」
柳田が復帰し、「スタメンからのラインナップの中で、あとから出場する選手がちょっと多い」というチーム事情によるものだった。代打や代走を担うベンチメンバー、選手それぞれの役割もある。「普通にチーム的にということなので、それはもうしょうがない」と笹川は冷静に受け止めた。
小久保監督からも「目標を切り替えよう」と声をかけられた。2軍も着々とウエスタン・リーグ3連覇に近づく大事な時期を迎えている。「『今は2軍優勝にしっかり力になれるように』と言われたので、そこに貢献できるようにしたいです」。突然言い渡された2軍行きにも“次”をしっかりと見据えていた。
前日の試合後、コーチが笹川にかけた“言葉”
前日の走塁ミス、そして無念の降格にも前を向けたのは、周囲の支えがあった。前日の試合後、ロッカーで落ち込む笹川のもとへ、伴元裕メンタルパフォーマンスコーチがそっと歩み寄った。話したのは、“最後の走塁ミス”ではなく「できていたこと」。9回無死二塁で1点差に迫る適時打を放った場面だった。
「チーム唯一の適時打だったじゃないですか。すごく冷静に打席に入って、自分のやるべきことに集中しているように見えました。『あの場面でよくやったね』と。そこ(走塁ミス)だけで『この試合、自分はダメだった』という捉え方はしてほしくない」
たった1つの失敗で、それまでの成功を無駄にしてほしくない。伴コーチのその言葉が、笹川の心を軽くした。この日は気持ちを切り替え、「きょう、また出してもらえたら頑張りたい」と口にしていたという。「前日のことはもう切り替えています」と本人も球場を去る時に明かしていた。
大きな荷物を持ち、球場を後にするその背中は、決して下を向いていなかった。優勝を目の前に受け入れがたい現実。だが、この悔しさは未来の大砲をさらに大きくする糧になるはずだ。再び1軍の舞台で輝きを放つ日は必ず来る。今はただ、その瞬間を楽しみに待ちたい。
(森大樹 / Daiki Mori)