43試合登板で防御率0.84…リーグトップの34ホールド
淡々とした表情で剛速球を投げ込む姿は、シーズン最終盤に入っても変わることがない。それどころか、投球は凄みを増している。松本裕樹投手は今季最長となる14試合連続無失点を継続中で、ここまで43試合に登板して驚異の防御率0.84をマーク。リリーフ陣の柱として存在感が際立っている。
印象的だったのは、20日の西武戦(みずほPayPayドーム)だった。7回に絶体絶命のピンチを切り抜けた上沢直之投手が魂のガッツポーズを見せると、それに呼応するように直後の攻撃で代打の中村晃外野手が決勝の適時打を放った。ホークスナインが、そして球場が大きな盛り上がりを見せる中、3点リードの8回のマウンドに上がったのが松本裕だった。
普段と変わらずクールな表情で登場した右腕は、11球で打者3人を簡単に打ち取ると、何事もなかったかのようにベンチへ戻った。直前の出来事をまるで知らなかったような雰囲気すら漂わせた背番号66。その背景には中継ぎ投手ならではの“矜持”と、今年から始めたルーティンの存在があった。
「特に球場の雰囲気とかは気にせず、いつも通り(試合に)入りました。勝ち越してくれたので、本来の持ち場だなと思っていました」
中継ぎ投手の思考「同点の方が集中高められる」
白熱した首位争いを繰り広げる中で、チームの象徴ともいえる中村が放った劇的な一打というシチュエーションを、右腕は淡々と振り返った。決してチームに関心がないわけではない。日々厳しい場面で登板を重ねるセットアッパーならではの考えがあった。
「むしろ同点の方が1点もやれない状況なので、集中を高めていけるのかなと思いますけど。(7回に)3点も入ったので。少し余裕はあったのかなと思います」。同点の場面であれば、点を失うことがチームの敗北に直結する。一方でリードしていれば、逆転されない限りは勝利の可能性が十分に残る。勝敗の核を握るポジションだからこそ、一喜一憂するわけにはいかない。
さらに松本裕が明かしたのは、今年から始めたという“ルーティン”だった。「今年はブルペンであまり(試合を)見ないようには意識してやっていますね。気持ちをフラットに保つために。試合状況だけはわかるようにして、あまり見過ぎないように意識してやっています」
プロ11年で277試合に登板し、107ホールドを挙げている右腕。余計な力みや焦りがパフォーマンスに直結することを知っている。熱の高まった展開であればあるほど、心を鎮める。そうやってチームの勝利に幾度となく貢献してきた。
「これまでと変わらず、出た場面ではちゃんと抑えられるように準備をしていくだけです」。リーグ連覇に向けた戦いは、泣いても笑っても残り23試合。頼もしすぎる右腕は、きょうもポーカーフェイスでマウンドに上がる。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)