川村友斗が親友の活躍に抱いた本音 誓う夢…濁した答え「あの、すみません…」

川村友斗【写真:竹村岳】
川村友斗【写真:竹村岳】

右手首骨折から3か月「違和感は残る」

 一度は現実を受け入れたつもりだった。しかし、回復するにつれて、その表情は焦っているようにも見えた。右手首の骨折から復帰した川村友斗外野手は8月5日、3か月ぶりに1軍へ帰ってきた。

 4年目の今季は開幕1軍を掴んだものの、4月9日に登録抹消。5月11日のウエスタン・阪神戦(日鉄鋼板SGLスタジアム)では、ファウルを打った際に右手有鉤骨を骨折した。「いろんな人に聞いても『違和感は残るよ』と言われているので。やりながら慣れていくしかないのかなと思っています」。変化を受け入れながら、必死に準備を続けているところだ。

 右手に包帯が巻かれていた当初から、リハビリは順調に進んだ。少しずつ野球のプレーができるようになってきた7月19日、川村に現状を聞こうとした。「大丈夫です。もうちょっとです」「(状態を)上げていけたらと思います」。明らかに口は重かった。同期入団かつ同学年で、1軍で存在感を示していた山本恵大外野手についても「ちょっと、言いたくないです」。首を横に振ると、そのままタマスタ筑後のクラブハウスへと引き上げていった。その数分後、再び記者の前に現れた26歳は意外な言葉を口にした。

8月5日に1軍昇格…山本の活躍に抱いた感情

「あの、すみません……」。いつも丁寧に取材に応じる川村だが、この時だけは抱いていた感情をうまく言葉にすることができなかったようだった。わざわざ戻ってきてくれるだけでも、律儀さは伝わってくる。あんなにも複雑な表情はこれまで見たことがなかっただけに、答えづらいことを聞いてしまったと、こちらも反省するしかなかった。

 3か月ぶりに1軍昇格。目指してきた晴れ舞台で、ようやく山本と顔を合わせることができた。あらためて問いかけたのは、1か月前の“あの日”言葉にできなかった本当の思い。親友の活躍を、どのように眺めていたのか――。

「山ちゃん(山本)は同級生なんで、『嬉しいな』とか『おめでとう』って思いつつも、同じポジションなので。応援もしていますけど、悔しかったです。そんな感じでした」

川村友斗と山本恵大【写真:竹村岳】
川村友斗と山本恵大【写真:竹村岳】

育成入団から3軍のプレーまでともにした“親友”

 プロ野球はポジションを奪い合う世界。競争に敗れれば、自分の生活にもダイレクトに影響を与える。タイプは違えど、同じ右投げ左打ちの外野手。山本の姿を見ながら、強い危機感を抱いていた。「育成からプロに入って、2軍でも3軍でも一緒にプレーした仲。一緒にいるのは嬉しかったですけど、そこの感情はなしにして。1軍は勝つことが大事なので」。自らの役割に集中し、リーグ連覇を目指すチームのピースになろうとしている。

 2人とも1軍にいたのは、10日間だけだった。山本も「ホテルでご飯を食べたり、しゃべったり。一緒にいる時間は長かったですね。別に、川村との会話に内容はないんですけど」と笑って振り返る。今年の4月、川村を追いかけるようにして自身も2桁の背番号を手に入れた。ポジションを争い、奪い合う関係になっても“親友”は大切な存在だと言い切る。

「変わらないし、いつも通りです。支配下になったのも川村の方が先でしたけど、自分との関わりが変わったわけではなかったので、そこでバチバチって感じは今もないと思います。今はあいつが1軍にいますけど、やっぱり応援していますから」

 山本が抱く夢。それは川村、正木智也外野手と3人で1軍の外野を守ることだ。川村も「それはあります! その3人だと、僕がセンターですかね?」。そう語った時にようやく、いつもの柔らかい笑顔が戻ってきた。悔しさや羨望といった感情を抱くのは、プロ野球選手としては当然のこと。高め合いながら、目標を叶えていく姿を見守りたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)