くふうハヤテとの一戦で見せた「なりふり構わぬ姿」
誰よりも冷静に自分の現在地を見つめているからこそ、バットを横に寝かせた。一塁を全力で駆け抜けていく--。口にしたのは、明確な「危機感」だった。
7月31日に行われたウエスタン・くふうハヤテ戦(みずほPayPayドーム)。「7番・二塁」で出場した廣瀬隆太内野手は4回1死の第2打席、初球にセーフティバントを試みた。巧みに三塁線へ転がすと、送球よりも早く一塁ベースを踏んだ。今季2軍では242打席に立ち、犠打はわずか「1」。得点には繋がらなかったものの、なりふり構わず出塁しようとする姿勢が伝わってきた。
慶大では通算20本塁打を記録。ルーキーイヤーだった昨季は1軍で2発を放ち、誰もが「右のスラッガー」としての将来像を描いている。アマチュア時代にも「やったことがない」というセーフティバントには、どんな意味合いがあったのか。そこから浮かび上がったのは廣瀬の“現在地”だった。
「あそこは打つよりも…」とっさに閃いた理由とは
「(自分の)調子が悪いので。あそこは打つよりも、セーフティの方がいいかなと思いました」。7月25日から2軍も後半戦に突入し、この日まで廣瀬は6試合に出場して打率.227(22打数5安打)。貪欲に“数字”を求めたことが、とっさの閃きにも繋がった。
背番号33にとって、長打力が武器の1つであることは間違いない。日頃からコミュニケーションを取る関川浩一コーディネーター(野手)は「目標を再確認させるようにしています。『お前の目標は何だ。そうだよな? じゃあブレるな』って。それしか言わないです」と明かしていた。方向性だけは見失わないように、シンプルな言葉で背中を押してきた。
スラッガーとしての成長曲線が期待される中、セーフティバントを試みたことについて廣瀬は言葉を選びながら思いを口にした。「じゃあ自分はホームランなのか、ヒットなのか……。でも今は(結果が)出ていない。それなのに大きいのを狙っても仕方ない」。現状を認めつつ、チームのために見せた献身的な姿勢。そのうえで、1軍でのプレーを想定した“備え”であることを強調する。
「困った時にセーフティができる技術があるうえで、打つのはいいと思うんです。引き出しを増やしておくことは大事ですし、1軍でやる可能性もあると思うので。自分のバッティングも磨くことも大事ですけど、そういったところも技術の1つ。どういう方向性かということも考えながら、(継続して)やっていきたいです」
5月15日に登録抹消…小久保監督に告げられた“課題”
今季1軍では30試合に出場して打率.224、1本塁打、7打点。二塁手としてはチーム最多の4失策を喫し、改めてプロの壁を痛感した。5月15日に登録抹消された際には監督室に呼ばれた。「『ファースト、サードじゃチャンスが少ないから。セカンドでやるしかない』って言われました。やっぱり自分はセカンドができないといけないので」。小久保裕紀監督とのやり取りからも、進むべき道のりは明確だ。大卒2年目のシーズン。首脳陣の思惑を踏まえ、自らの背筋を力強く伸ばした。
「そこ(周囲)に甘えていても……。結局は結果を出さないといけない。年齢が上がれば求められるものも上がると思いますし。打てなかったりしたら、いつかは期待されなくなるわけじゃないですか。去年よりも成績は悪いですし、新しい選手だって入ってくる。そこの危機感はあります」
冷静に現状を分析するからこそ、突き動かす思いも強くなる。「足元しか見ていないです」。試合前練習中でも、ベンチから守備位置まで走って向かう姿が印象的だった。味わった悔しさを糧にして、廣瀬隆太は今、必死に変わろうとしている。
(竹村岳 / Gaku Takemura)