「パニックだった」4か月前 谷川原の確かな成長…首脳陣が評価した“HR直前のプレー”

今季1号を放った谷川原健太【写真:小林靖】
今季1号を放った谷川原健太【写真:小林靖】

谷川原が1軍で4年ぶりの本塁打「気持ちよかったです」

 4年ぶりの豪快な一発だった。「気持ちよかったです。初球でしたけど、積極的にどんどん行こうと思っていました」。そう振り返ったのは20日の西武戦(ベルーナドーム)で右翼へ特大の今季1号を放った谷川原健太捕手だ。守っては、8回まで合計7人の投手をリードし、チームを5連勝へ導いた。

 しかし、この一打が生まれる直前、マスクを被る谷川原は責任を感じていた。打線が4点を先制した直後の3回、先発の東浜巨投手が2失点を喫し、イニング途中でマウンドを降りた。野球のセオリーとして、得点直後の失点は相手に流れを許しかねない“タブー”。「試合は続いていくので、はっきりと切り替えてやっていました」。谷川原はそう気丈に振る舞ったが、その胸中は穏やかではなかっただろう。

 それでも「成長だと思います」。首脳陣が目を見張ったのは、豪快な一発を放った結果よりも、ピンチで見せた“捕手としての姿”だったーー。

「1軍に上がってきてから、きょうまであんなに打たれたことはなかったと思うんですよ。でもランナーを背負った状況でも落ち着いていました。(投手が)打たれても『どうしよう』という感じには見受けられませんでした。そこは一つ、成長だと思います」

 そう語ったのは高谷裕亮バッテリーコーチだ。評価したのは、4点を先制した直後の3回。1死一二塁のピンチで冷静にタイムを取り、マウンドの東浜に声をかけて間を作った場面だった。結果、犠牲フライとタイムリーで2点を失ったが、それ以降も同点に追いつかれることはなかった。

「何もないときは攻め気でいい。でも、そうでないときには時間をかけていい場面が出てくる。結果的に失点をしたことは反省だが、あそこでタイムをとって切り替えをしようとしていた。そういうところはきちんとできています」。ベンチが求める捕手としての状況判断力が、そこにはあった。

7投手をリードした谷川原健太(左)【写真:小林靖】
7投手をリードした谷川原健太(左)【写真:小林靖】

開幕直後に2軍降格も…取り戻した「本来の姿」

 昨オフ、絶対的な「司令塔」だった甲斐拓也捕手がFA移籍。熾烈な正捕手争いを制し、開幕スタメンの座を掴んだ谷川原だったが、現実は厳しかった。マスクを被った3試合でチームは全敗。4月7日には出場選手登録を抹消された。

「春先は『抑えなくちゃいけない』と思いすぎて、少し縮こまっていた」と高谷コーチは振り返る。責任感が空回りし、本来の明るさも影を潜めていた。その姿は、谷川原自身が一番よくわかっていた。「(守備で)色々パニックになっていましたけど、今はかなり落ち着いてできているかなと思います」と振り返る。

 再起を期す中で、谷川原は細川亨2軍バッテリーコーチからプロとしての“姿勢”を叩き込まれた。「『試合中に反省するな』という言葉は今でもずっと思ってやっています」。ミスを引きずり、殻に閉じこもりがちだったかつての自分との決別。その教えが、苦境で生きた。

 失点直後の4回の打席。「試合は続いていくので、はっきりと切り替えてやっていました」。その言葉通り、無心で振り抜いた打球は右翼スタンドに届いた。高谷コーチも「打つ方は打つ、守る方は守る、としっかり切り離せている。守りの時は守りのこと、打席になったらバットで貢献しようという姿勢が見えます」と、攻守にわたる精神的な分離を高く評価した。ファームでリフレッシュし、「頭の中がすっきりしたように感じる」と、本来の明るさを取り戻したことも大きな変化だ。

試合後に漏らした本音「悔しい気持ちはあります」

「悔しい気持ちはあります」。一方でこの日、勝利目前の9回の守備から海野隆司捕手と交代したことについて問われると、即座に本音を口にした。

 フルイニングで出場し、チームを最後まで勝利に導いてこそ“正捕手”。その理想像が、28歳の頭の中にはっきりとある。プロ10年目で初めて掴んだ開幕マスクと、わずか11日での2軍降格。酸いも甘いも味わった男は、確かな変化を遂げてグラウンドに帰ってきた。胸に秘めた悔しさを糧に、谷川原健太の本当の戦いが始まっている。

(森大樹 / Daiki Mori)