明石コーチといえば、現役通算648安打。ユーティリティプレーヤーの“元祖”とも呼ばれ、多様な役割をこなしてチームを支えた。2022年で現役を引退すると、指導者に転身。2023年から2年間、2軍で打撃コーチを務めた。今年からは「R&Dグループスキルコーチ(打撃)」に就任。「リサーチアンドディベロップメント」の略称で、動作解析の観点から選手の“感覚”を数値化し、改善していく部門だ。
R&Dグループスキルコーチ(打撃)には長谷川勇也コーチや、新入団の菊池拓斗コーチがいる。打順を考える、戦略を練るなど、打撃コーチがこれまで背負ってきた役割がある中で、明石コーチらはより一層「技術」にフォーカスを当てる。「教える、という感じではないです」と否定しながら、自分たちのスタンスを語った。
「掴むためのきっかけを与える、という感じじゃないですかね。教えるというよりは、早く自分のアプローチのやり方を確立させてほしい。会話とかはもちろんするんですけど、『こうしろ』とかは言わないです。感覚はそれぞれ違うと思いますし、ただスキルと言われているところから、きっかけを見つけるというところです」
2023年12月には渡米。「ドライブライン」に本格的に触れるなど、打撃における知見をどんどん深めてきた。「数値化する時代はくるでしょうね」と未来を予測する。一方で「ただ、それをどう使われるのか」とも。体の部位1つを取って見ても「使い方が小さい、とかはありますね。例えば肩甲骨や、背中だとか。それも、イメージをわかせるためにドリルを処方していくんです。数値も照らし合わせて、じゃあこれをやっていいのか。主観ではわからないところもありますし」。長谷川&菊池コーチと力を合わせ、選手1人1人に合った指導法を模索している。
打撃コーチ時代から、大きな変化はない。「(選手と)飯には行かない、だとか。ある意味、一線は引いていましたね」。その上で「現場のコーチではなくなったので。迷っていることや悩んでいることは僕たちも知りたいですし。話ができる仲じゃないと、(ドリルの)処方にも影響してきますから」と、コミュニケーションが重要であることは同じだ。打撃について知れば知るほど、奥深さを痛感する。正解がないからこそ、心がけるのは耳を傾けることだ。
「いろいろ話を聞いたりする中で『正しいスイング』というワードが出てきたら『正しいスイング? そんなものあるの?』って自分の中でクエスチョンがありますよね。打てれば正しいのか、型が正しいのか。正解もなければ間違いもないと思う」
過去には、選手に対して「形を気にする選手がすごく多い。打ちにいく中で、あとは対応なんです」と話したこともある。肩書きが変わった今も「自分がいいコンタクト、アプローチができた時が『いい形』だと思うんです。どれだけいいスイングでも、土の上で3回振ったら三振なんですから」と言う。
投手の手から離れたボールを捉えなければならないのだから当然、“対応”も重要な要素だ。「ボールに合わせてタイミングを取る選手もいれば、自分の形を作ってから投手を見る人もいる」。人それぞれであることは重々承知。だからこそコーチ陣が引き出しを持ち、ヒントを与えられる準備を重ねている。
動作解析という観点から、ポテンシャルを秘めている選手は誰なのか。即答で名前を挙げたのが石見颯真内野手だった。2月27日、A組の練習試合に参加するといきなり2安打1打点の活躍。小久保裕紀監督にも「衝撃的でしたね」と言わせた。明石コーチも「自主トレで一発目で見た時から『打つやろな』『バットには当たるやろな』と思いました」と明かす。
「考え方だったり、打席の待ち方が、僕はできあがっていると思いました。タイミングを取るのも上手いですし。打ちにいった時、インパクトがどのタイミングになるのか、理解している。ちょっと差し込まれているなら腕をたたんで逆方向に打ったり、逆に(タイミングが)早いと思ったら粘ってバットを前に出したり、そういうことができる。18歳のバッティングとしてはすごく魅力的です」
明石コーチは2004年、高卒1年目から安打を記録した。大絶賛するからこそ「こっち(守備)も頑張らないといけないですけどね」と注文も忘れなかった。指導者としてのキャリアは3年目を迎える。自分を突き動かすのは、選手と一緒に成長したいという真っすぐな思いだ。