「いる意味がない」松本裕樹に求める“1軍の条件” 危機感も…首脳陣が設けるハードルとは?

ヤクルト戦に登板した松本裕樹【写真:冨田成美】
ヤクルト戦に登板した松本裕樹【写真:冨田成美】

昨年9月4日以来の実戦復帰…「まずはしっかり投げ切れるように」

 求めるハードルが高いからこそ、偽りはなかった。大車輪の活躍で支えてきた右腕も「難しい」と危機感を口にする。ソフトバンクは5日、ヤクルトとのオープン戦(みずほPayPayドーム)を戦い、3-1で勝利した。6回に登板したのが、松本裕樹投手だ。「出力は上がって、着実に一歩ずつ進めていると思います」と頷く。右肩痛からの復帰を果たした中、明かしたのは自身の“立場”だった。

 0-0の6回からマウンドへ。まずは先頭の武岡を左飛に仕留めた。その後、2四球と安打で2死満塁となった。最後はオスナを中飛とし、無失点で切り抜けた。ラストボールは、この日最速の147キロだ。「練習にはない緊張感があったので、自然と力が入りました」。試合ならではの空気をしっかりと感じていた。昨年9月4日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)以来の復帰登板。「オフでしたし、特別なにか(感情は)、というものはないですね」と、冷静な口調も松本裕らしい。

 右肩痛を訴えて、9月5日に登録抹消された。以降はリハビリ組として調整。半年ぶりのマウンドとなったが、まだ“病み上がり”なだけに「初めての実戦だったので、意識して(球速を)上げることはせず。まずは今日をしっかり投げ切れるように」という。3月28日の開幕まで、ここから状態を上げていく。明確なプランを抱きつつも、首脳陣とのやりとりには、右腕の立場が表れていた。

「勝ちパターンじゃないと、いる意味がないと思っている。そこに入るくらいのパフォーマンスを、と(首脳陣からは)言われています」

 現状、ロベルト・オスナ投手とダーウィンゾン・ヘルナンデス投手に加え、藤井皓哉投手、杉山一樹投手らの開幕1軍入りが明言されている。小久保監督も「相当厳しい」というほど、中継ぎ枠の競争も熾烈を極めている。今後の復帰プランこそ明確ではあるが、このままではいけない――。松本裕自身も「まだまだやっていかないといけないことは多い。出力や変化球の精度、全体的に高めていかないと、このチームでは難しい」と、危機感を忘れていなかった。

 倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)に、真意を聞いた。昨シーズンは50試合に登板して2勝2敗、14セーブに23ホールド。セットアッパー、抑えをこなした右腕について、こう言及した。

「もともと抑えをやれるくらい力のある投手が、勝ちパターン以外で入るというのは考えられない。(もしそうなれば)それは状態が悪いということじゃないですか。その選手を中継ぎで入れるのはないですね、基本的には。故障上がりじゃなければ、シーズンに入ったら上がってくるのかなとイメージもできるんですけど、そこはやっぱり上がった状態で入ってきてほしいです」

昨年9月4日以来の実戦復帰を果たした【写真:冨田成美】
昨年9月4日以来の実戦復帰を果たした【写真:冨田成美】

 昨シーズン、圧倒的なパフォーマンスでブルペンを支えた背番号66。あの姿を知っているからこそ、自然と“勝ちパターン級”の投球を首脳陣も求める。倉野コーチも「何キロでもいいんです。145キロでもいい。コントルールや変化球も含めて、投手のパフォーマンスとしてそこに組み込めるかどうかってところだけです、評価は」。投手に共通する目標は、バッターを抑えること。心技体が揃った状態でいてほしいのは、どの投手も同じだ。

 リハビリ組から春季キャンプにかけて、調整を一任してきたことも右腕に対する期待そのもの。倉野コーチは「だからS組なんです」と強調した。首脳陣から松本裕に対して、求める“ハードル”が高くなっている証。「体に問題がないです、出力も全力で出せますという状態で、結果が出ないからといってファームということはないです」と語るのは、まさに信頼の裏返しだった。まずは万全の状態にしてもらうこと。「それが条件になる」というのは、きっと共通認識だ。

「開幕までにしっかりやって、それを1年間続けていきたいと思います。しっかりと自分が自信を持って投げられるようにしていきたいです」と松本裕も話す。ブルペン陣の層の厚さは、誰よりも理解している。首脳陣からの期待と信頼を背負って、3月28日を目指していく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)