今春キャンプでは、球団として初めてS組制度を導入した。レギュラークラスには調整を一任することで、首脳陣は若手選手を見る時間が多くなる。収穫も課題も、しっかりと見極めながら2月を過ごしてきた。26日、韓国ロッテとの練習試合に1-6で敗戦。指揮官も「3月4日(のヤクルトとのオープン戦)からS組、主力が戻ってくる。とても争いをしているようには見えないね、残念ながら」と首をかしげた。これまで“評価”については多くを語ってこなかったが、開幕1軍についても初めて具体的に言及した。
「開幕1軍はシミュレーションしていますけど、(ジーター・)ダウンズを抜いて、あとキャッチャーが何人入るのかわからないんですけど。(ダウンズを抜いた)野手では、今日いたメンバーで多くて4人。キャッチャーを3人(1軍に)入れるなら、3人しか入れないです」
「声出せよ。出さんかったら1軍置いとかへんぞ」
姿こそ見えなかったが、選手との会話であることは明らかだった。一夜が明けた28日、指揮官を直撃すると「コロナ世代の子たちは慣れていないからね。声を出したらあかんと教わっているからさ。でも、もうそれは過ぎたので。ベンチでバンと座っているんなら、さ。『声の出し方はこんなのがありますよ』って。そのメソッドも作ったら(と思う)」と真意を語った。2020年から新型コロナウイルスが世界中を襲ったが、遠慮はもう必要ない。前のめりになってほしいというメッセージだった。
28日はA組、B組ともに試合がなく、雨天の影響で分離練習となった。室内練習場での調整。A組の野手は午前中で練習を終えると、球場内の一室に集められた。緊急でのミーティングだった。小久保監督は「たった今、その(声の)話をしたのよ。われわれから見た評価が同じなら、元気があるやつを残しますって」。受け継いできた“伝統”を改めて口にしたことで、さらなる奮起を求めた。
「声を出すのはある意味、ホークスの伝統でもある。それも王イズムですから。評価に値するということは伝えました」
ミーティングに同席していた奈良原浩ヘッドコーチは、指揮官の思いを代弁した。「結局、監督が言っているのはしっかりとアピールしなさいということ。実力が均衡していて、たとえば2択になった場合、ベンチの雰囲気をよくする人間を置いておきたい」。昨季を振り返っても「近藤とか率先して声を出してくれたし。柳田、栗原、佑京(周東)もそうだけど。その下の層がついてきてほしいというメッセージ」と期待を込める。
声といえば、真っ先に思いつくのが松田宣浩氏だろう。2005年ドラフトで“熱男”と同期入団となり、ホークスを支えた本多雄一内野守備走塁コーチは「あの時は内野陣が全員、うるさいくらい声を出していましたね」と振り返る。「主力が出すことで、下の選手が気づかないといけないですよね。そうなれば自然とベンチが声を出さざるを得なくなる。そういう空気はありました」と強調する。
プロの世界に飛び込むまで、選手たちの経歴は十人十色。本多コーチも「声を出さないでプレーをしてきた、または小さい頃から声を出す環境じゃなかった、ということもあると思います」と理解を示す。その上で求めるのは、チームを助けるために「伝える」ことだ。
「野球は団体スポーツ。1人でやっているわけではないので、相手に『伝える』ことですよね。先々を読む声が野球には必要です。『さあ来い』っていうのはよく出していましたけど、プロになればプロの“質の高い声”がある。ベースカバーだとか、バッターの特徴を見ながら『ボテボテの打球がきそう』だとか。僕たちも主力として内野を守っていた時、ベンチからの声で助けられたことがありましたよ。『セカンド、あそこに飛びますよ』って。経験を積んでも気づかされることが必ずありますから」
生き残りをかけた競争。不安と緊張で、自分のことに精いっぱいにもなるだろう。レギュラーになってきた誰しもが通ってきた道。腹の底からの声を聞かせてほしいと、首脳陣も願っている。