この日の最速は144キロ。4回からマウンドに上がり、打者3人を右飛、一ゴロ、中飛に仕留めた。「目標としていたスピードよりも出ていたので。順調と言うか、良かったなと思います」と安堵の表情を浮かべた。板東の投球をバックネット裏から見ていた川越英隆コーディネーター(投手ファーム統括)も「だいぶフォームと腕の振りが合ってきたと思います」と評価。30歳を迎える右腕の現状を明かした。
26日のブルペンで投球を視察した川越コーチは「投げる形はできている。コントロールも良いし、変化球も良いので。真っすぐの力強さが出れば、変化球も生きてくる。本人の理想の投球に近づくんじゃないかな」と話していた。一方で心配したのは本人の性格。実直な右腕は、毎日のように最終のバスで帰るなど、誰よりも練習をこなしている。
「すごく真面目でやりすぎてしまう部分があるので。朝も早く来ているけど夜も遅い。最終で帰ってますし。投手って考えすぎると投げられないこともあるので」
昨年はルーキーイヤー以来となる1軍登板ゼロ。2軍でも14試合で3勝2敗、防御率3.88と思うようにいかない日々が続いた。中でも直球の平均球速は2023年が1軍で146.7キロだったのに対し、昨年は2軍で140.5キロ。試行錯誤を繰り返したが、なかなか球速が戻らなかった。
川越コーチは「腕を振って投げるというシンプルな形が良い」と割り切ることを勧めていた一方で、それがいかに難しいかということも理解していた。人は「考えるな」と言われれば言われるほど考えてしまうもの。伝え方、指導法に悩みながらも、この日、板東は今年初の実戦で思い切って腕を振った。堂々たるピッチングで打者3人を8球で仕留めた。
板東も全てに納得がいっているわけではないが、掴みかけているものもある。「出力と、ゲームの中での精度は全然まだまだでしたけど、ブルペンの後で(調子が)上がってくる感じはありました。キャッチボールから良かったので自信を持って行くことができた」。曇りの消えたこの表情こそ、川越コーチが求めてきていたものだった。
「あとはあまり考えすぎたり、悩んだりせずに。この調子を維持できれば」と川越コーチ。再び1軍の舞台へ。ようやくスタートラインに立った。あとは全力で駆け抜けるだけだ。