笹川吉康がノートに記す「ギーさんに教わったこと」 “迷い”消す道しるべ…継続する習慣

インタビューに応じた笹川吉康【写真:川村虎大】
インタビューに応じた笹川吉康【写真:川村虎大】

鷹フルリレーインタビュー…春季キャンプでの状態は「化け物になるにはまだ」

 今年から「鷹フルリレーインタビュー」はリニューアルしました。テキスト方式で、選手それぞれの今季にかける思いを紐解いていきます。今回は笹川吉康選手の登場です。自分が掴んだものを忘れないために始めたメモの習慣。表紙には「笹川」とだけ書いてあります。ファンの記憶にも刻まれた昨年のプロ初本塁打。待望の初アーチに繋がった一節とは?

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 次世代を背負うプロスペクトとして期待され、球春を過ごしている。初めてのA組スタートで、多くの選手が笹川について「えぐい」と口を揃えている。「本物の化け物になるには、まだまだです」と足元を見つめるが、競争の中心にいることは間違いない。

 2024年は7試合に出場して打率.286、1本塁打、2打点。日本シリーズでのスタメン起用も経験した。今春キャンプについても「いい感じです。(重点を置くのは)バッティングですね。それしかないです。打たないと出られないので」と、持ち味を存分に磨いているつもりだ。横を見れば、競争相手がたくさんいる。それでも「楽しいですね。『やばい、どうしよう』って意味での緊張はないです」と言ってのける。

 そんな笹川を支えるのが、1冊のノートだ。「その日に色々書くとごちゃごちゃしてしまうので。いいなと思っても、次の日にはやっぱり違うなって思うことがありますし。『これはもうこの先絶対やっていこう』と思ったらこれを書く感じ」。感情を記すことはなく、ほとんどが技術論。毎日書き込むわけではないが、後になって必ず自分を救ってくれると信じ、ペンを取る習慣をスタートさせた。

「きっかけは1年目、2年目終わったくらいですね。僕らは成長しないと出られないですし。バッティングの感覚って毎年違うんです。『感覚を覚えているだろう』と思って、12月や1月を過ごすんですけど、2月に入ったらその感じがわからなくなる。元に戻るんですよ、悪い時の。どうやって振るんだろうってところから(キャンプインするから)、スタートが遅れるんです。フォームを探し続けて、見つからなくて、でも試合は始まる。だからそれをメモして、思い出しやすくしています」

表紙には「笹川」とだけ書いてあるノート【写真提供:笹川吉康】
表紙には「笹川」とだけ書いてあるノート【写真提供:笹川吉康】

 フルスイングが最大の魅力。長打力が持ち味である一方で、確実性を課題とされてきた。「3年目の前半は本当に酷かった。打率も1割台だったんですけど、(シーズン)後半は月間3割とか打ったこともありました。それを最初から打ちたいなと思って、始めましたね。感覚とか、頭でわかっていてもわからなくなるので。忘れちゃいますし」。理論派というよりは、猛練習で体に染み込ませるタイプだろう。自らの努力で得た“気づき”は、もう絶対に忘れない。

 昨年6月15日の阪神戦(みずほPayPayドーム)でプロ初本塁打を記録した。豪快なアーチに、ファンの誰もが未来に期待を抱いた。その4日前、1軍昇格した11日も左手にペンを取った。「足を早くつくことですね。1軍は球が速いじゃないですか。足が浮いていたら、差し込まれてしまって打てないので。足を早く地面につくイメージでやっていましたね」。相手投手はビーズリー、捉えたのは直球だった。残してきた“軌跡”が、記念すべき第一歩にも「繋がりましたね」と深く頷く。

 1月には、柳田悠岐外野手と2年ぶりに自主トレを行なった。トレーニングと食事を終えて、1人の時間になれば自然とノートを開く。「ギーさんから教わったことと、自分の感覚です。僕は振り出しが悪い傾向で、バットが落ちたまま振ってしまう。久々に振る時は『落ちやすい』って書いておけば、来年の打ち出しの時は『あ、落ちやすいんだ』って。感覚が早く戻るかなと思うので」。中身は全て箇条書き。「いくら丁寧に書いても汚いです」と苦笑いするが、22歳の若鷹は、すでに重要な習慣を身につけている。

 経験を重ねたことで自身の中でも変化は生まれた。「遠い存在だった1軍が近く感じるというか。1軍で出ていない時点ではまだまだ無理だと思っていたんですけど、1回行ったことで行けるんだというか、行くんだというか。そんな気持ちが出てきました」。この晴れ舞台で、活躍しなければならない――。大切に記してきた字を見れば、笹川はきっと迷わない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)