2025年初となる公の場…リチャードから頭を下げて「絶対に変わりたいです」
ポツリと漏らした一言に、伝え続けてきた“真意”が詰まっていた。「リッチー、そういうことやめろ」。成長を促すための師匠の愛情だった。
ソフトバンクの山川穂高内野手が20日、沖縄・嘉手納スポーツドームで自主トレを公開した。2025年となり、初めての公の場。「誰がどう見ても体が締まったと思いますし、とんでもない練習量をやっているので。ぜひ期待してもらえたらと思います」。目を細めながら語ったのは、愛弟子のリチャード内野手についてだ。濃密なオフシーズンの中で数々の助言を送ってきたが、たった1つ、“人として”やめさせようとしてきたことがある。
「絶対に変わりたいです」。昨年11月、リチャードは山川に頭を下げて懇願した。可愛がってきた存在ではあったが、妥協することなく指導をするには山川自身にもパワーが必要だった。「わかった。その代わり、絶対にやり切れよ」と、2人が覚悟を決めた瞬間だ。かつては「リチャードは出る場所がない」とも表現していたが、ホークスでレギュラーを取ってもらうために、自分の時間も技術も、全てを費やしてきた。
20日の自主トレ公開。体幹メニュー1つにしても山川は3分に対して、リチャードは15分。とにかく体で覚えるために「3倍、4倍」の練習量を課してきた。「本当に、よく頑張ったなと思います」と口にするのも、偽りのない本音だ。しかしあまりのキツさに、リチャードが20キロのプレートを投げるように手放してしまった。「リッチー、今年はそういうことやめろ」と山川が言ったのは、この時だった。
咄嗟に言ったのではなく、明らかに自主トレ期間中も継続して伝え続けてきたようなニュアンスだった。常に全力でプレーする一方で、集中力も課題だとされてきたリチャード。投げやりになった一瞬を、山川は見逃さなかった。「冗談ですけどね」と笑うが、師匠からの目線で真意を明かす。
「あいつ、あれじゃないですか。思ったこと言うじゃないですか、いいことも悪いことも。それはそれであいつのキャラなので、別にいいと思うんですけど。ただ、本当に生まれ変わるというか、リチャードっていう人間がこれから野球をうまくなっていくにあたっては大事になる可能性があるじゃないですか。僕が偉そうに言うことではないですけど、野球で活躍していない段階で、それをやってしまうとね」
トレーニングはもちろん、日々を丁寧に過ごしてもらうために、“禁止”にした行動だった。リチャード自身も「少しだけ動じないようになった気がします。シーズンに入ると気にしてしまうことが多いので」と変化を感じ取っていた。圧倒的な練習量をこなしてきたからこそ、生まれてきた自信がそうさせる。
ある日の車中の出来事。リチャードの胸に刻まれた言葉がある。「明日死ぬなら、どういうふうに過ごす?」。自ら「変わりたい」と頭を下げ、絶対に後悔したくないという覚悟で厳しいトレーニングを乗り越えてきた。「だから、その言葉がいいなって思いました。これで怪我をしても、本望というか」。もし怪我をしてしまったとしても、この2か月半、やり残したことは一切ない。大切にしたいと、心から思えた瞬間だった。
山川目線でも「明日死ぬなら……」という言葉を解説する。「これはうまく書いてほしいんですけど。ムカつく時も、人ならあるじゃないですか。わけのわからない人もいたり」。前置きした上で語ったのは「充実すること」の重要性だった。
「『リッチー、お前な。今日死ぬとしたら、何する?』って言ったんです。『今日死ぬなら、誰に何されようが、知らんくね?』って話をしたら『そうですね』って言っていた。とにかく自分が充実すること。(腹を立てたり)他のことを考えるのは全くの無駄な時間ですよね。だから練習も楽しくする、夜ご飯も仲間と一緒に食べてお酒も飲んだりする。『今日死んでも悔いないわ』っていう人生を送るくらいの意識の方がいいよね。それが、できているかどうかは別にして、俺はそう思うよって話はしました」
誰にも奪われない自分だけの芯を作る。そのための期間が、もうすぐ終わる。「この2か月よく頑張った。ここからは野球です。どうやったら1軍で打てるのか。僕がわかる範囲でアドバイスができたら」。愛弟子の姿には、心からの賛辞を贈った。そして山川は、こう続けた。「僕が後輩にアドバイスをするのはリチャードだけ」。2人の関係性を表した、尊い言葉だった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)