2年目左腕がプロ入り後に抱いた夢「今のままじゃ絶対に無理」
一言一句の全てを吸収する覚悟で飛び込んだ。「もう全部の言葉を覚えておこうっていう気持ちで聞いていました」。昨年12月にメッツの千賀滉大投手と初めて対面し、トレーニングをともにした前田悠伍投手。背番号41の“先代”と過ごしたのはわずか3日間だったが、濃く深い時間で多くのことを学んだ。
技術面においては“長所と課題”を分かりやすく教えてもらった。「手先が器用ということと、教えたことをすぐに自分で理解して、(再現)できる感覚がいいと言ってもらいました」。一方で、「器用さが逆に悪い方向にいく選手も多いと。手先が器用な選手は手だけでも投げられるので、怪我のリスクも高くなると言われました。あとは、肩甲骨の動きをわかっていないと。どうしても肩甲骨に“はめる”っていう動きだけは、この3日間でうまくできなかった。そこは『これから』って言ってもらいましたね」。しっかりと千賀に現状をチェックしてもらった。
技術的な助言もさることながら、前田悠が「めっちゃ印象に残っている」と挙げたのが、「時代の先を見る」という言葉だった。
「最初は『時代の先を見る』ってどういうことかなと思ったんですけど。10年前だったら150キロを投げたら球が速いって感じだったけど、今では150キロは普通。160キロを投げる人もいる時代になって。今からさらに10年後ってなったら、真っすぐと変わらないスピードで球を動かしたりとか。バッターで言えば、もう本当にホームランしか狙わない人が増えるんじゃない? みたいな話をされて。時代の先を見ておいたら楽というか、その先までしっかりやれるんじゃないか、という話をしてもらいました。それはすごく印象に残っています」
先を見ることは日々の姿勢にもつながる。「次の1試合に向けて調整するのも大事だけど、自分がもし日本代表に選ばれたいとか、メジャーに行きたいっていう夢があるなら、目先だけを見て調整しているだけじゃ届かないよね、みたいな話もされて。自分の夢っていうレベルで見たら、今のままじゃ絶対に無理やなと。千賀さんみたいに活躍されている人がこれだけ考えてトレーニングや勉強をしているんだったら、まだ1軍でほとんど投げたことない自分が、休んでいる場合じゃないなって」。前田悠自身も「本当にそこから気持ちもめちゃくちゃ変わりました」とうなずく。19歳とは思えないストイックさを持つ左腕であっても、「全然、まだまだやって思いましたね」。千賀の言葉が強く胸に刻まれた。
千賀から授かった言葉を忘れないための“日課”もあった。「僕は練習中とかに言われた言葉って、ノートに書くまでずっと覚えていられるんですよ。千賀さんとのトレーニングは1日目だけで野球ノートに3、4ページくらい書けましたね。いい言葉というか、身になる言葉がありすぎて、忘れたくなかったので……」。トレーニングを終えると、部屋に戻ってA4サイズの野球ノートにペンを走らせた。3日間で埋め尽くされた10ページ分の言葉。今でも読み返すと、余韻に浸り、気持ちが入るという。
千賀の姿からは“エース”の在り方も感じた。「やっぱりエースは技術でも圧倒しないといけないし、考え方も一流じゃないとダメだなって、改めて勉強させてもらいました。1月も(カブスの)今永(昇太)さんと自主トレをやらせてもらうので。エースと言われてきた人からいろんな話を聞いて、最終的には日本のエースになりたいです」。共感したのは「やると決めたらやる」という千賀の言葉。「簡単そうな言葉だけど、めちゃくちゃ大事だと思うので。例えば遊びに行こうと言われても、やるべきことが終わっていなかったら『やめとく』って、しっかり言えるような選手になりたいですね」とうなずいた。
プロ入り後に抱いた目標もある。「千賀さんや今永さんと一緒にやらせて頂く機会ができて、気持ちはより強くなりました」。将来的なメジャー挑戦だ。当然、現時点ではまだまだ届かない距離であることは理解している。それでも、「メンタルも技術も一流になって、誰にも敵わないと思われるような選手になりたいですね」と力を込めた。
大きな夢を抱きつつも、まずはホークスでの立場を確立させることが今季のテーマだ。「開幕ローテに入ることが目標なので。千賀さんと会って、本当に球も変わってきているので。キャンプ初日からアピールして、1年間1軍で投げたいな……。投げたいなっていうか、もう投げる! っていうのが目標です」。夢あふれる若鷹の2年目が楽しみだ。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)