ホームゲーム終わりの“恒例行事”が成長の足がかりとなった。プロ入りからの課題となっていた長打率が急激に伸びた今季の柳町。本塁打は過去4年で1本だけだったが、今季は4本塁打を放ち、長打率はキャリアハイの.421をマークした。その大きな要因だったと自己分析するのは、近藤健介外野手、栗原陵矢内野手との試合後の練習にあった。
「試合後に近藤さん、栗原さんと3人で試合後に練習をやっている中で、色々と試したりしていました。その時間が今年の長打に繋がったのかなとも思います」
今季柳町が1軍に昇格したのは、5月28日だった。昇格して以降は、ホームゲーム後のほとんどの時間を近藤、栗原と室内での打撃練習に費やしてきた。そこでは練習だけではなく、バッティング談議にも花が咲いたという。その1つ1つの時間が、自身の“打撃の幅”を広げるきっかけになっていたと明かす。
「コンさんとクリさんが話している内容を自分で取り入れたり、僕もコンさんに直接聞いてみたりしていました。今シーズンのホームゲーム後の時間がすごく僕にとって技術というか、引き出しが増えた時間だったなと思います」
毎日の積み重ねは結果につながりはじめた。ともに本拠地で行われた8月4日の日本ハム戦、9月21日の楽天戦で放ったサヨナラ打は、成績以上の印象を残した。「(試合後の打撃練習は)正面からボールを投げて、それを打つっていう感じなんですけど、その時間がすごくいいものだったなと思います」。人知れず流してきた汗。努力が実り始めた瞬間だった。
近藤との会話の中で、深く胸に残った言葉があった。「ベルーナの試合前に『(バットの)ヘッドが加速する前にボールに当たってしまう』っていう話をコンさんとしたんです。そしたら、『体を回し終わった後は耐えて、バットが伸びるような感覚。その時間は絶対必要だから。回しすぎずに止めて打ったらどう?』といった、技術的な話をされました。そのイメージのまま試合に入ったらホームランを打てたので、その言葉はすごく覚えていて。言われた直後にできたことなので、身をもって体感したというか、すごく印象に残っています」。
“天才打者”からもらった、これ以上ないアドバイス。すぐさま本塁打が打てたこともそうだが、その後もイメージを持ち続けたことで、自然と長打も打てるようになったという。
シーズン当初、ファームで過ごしていた時は反対の立場だった。若手野手からは打撃技術に関する質問が相次いだ。「本当に特別なことはやっていなくて、僕自身はアドバイスできるようなこともなかったんです。僕自身はそんなにレベルが高くないなとは思っているので。僕のことを過大評価してくれている」。若手に助言することはなかったと謙遜しながら明かしたものの、引き出しが増えた今であれば伝えることも増えたに違いない。
初めての日本シリーズでは8打数無安打に終わった。「大事なのは基礎というか、本当にやるべきことをちゃんとやること。緊迫する場面であればあるほど、やっぱり自分のできることを集中してやるのが一番大事なんだなっていうことを身をもって体感した」。大一番を前に、本来のプレーができなかったと反省する。それでも日本シリーズを経験できたことは来季以降の活躍につながっていくはずだ。
「本当にいろんな経験ができたシーズンだったので。いいことも悪いことも経験して、それを繋げることはできたと思います」。シーズンを総括して最後にこう語った柳町。残ったのは成績以上の手応え。来季をどう戦うのかは、すでに自身の中で見つけている。