山川穂高はプロ野球を“エンターテインメント”だと表現する。伊良部秀輝vs清原和博、松坂大輔vsイチロー……。力と力の真っ向勝負で、名シーンがいくつも生まれた時代。ファンをワクワクさせてこそのプロ野球が好きでたまらない。「今は(チームの)勝ち負けばかりになりすぎなんですよ。エンターテインメントなので。だから面白くて、勝つ。そこを目指さないと」。
西武からFA移籍して1年が経とうとしている。ポストシーズンを含め、今シーズンの全152試合で4番に座り続けた山川。ホークスの選手としてチームメートを見た時に、改めて感じたのは柳田悠岐外野手の凄さだった。「だから一番すごいと思っているのが、柳田さんなんですよ」。
豪快なフルスイングにスタンドは息を飲む。お立ち台に立てば、飾らない1つ1つの言葉でファンを笑顔にする。誰にも負けないキャラクターと、打者としての勝負強さ。柳田こそが、まさに山川が求める「エンターテインメント」。だからこそ「一番すごい選手」だとはっきりと言うことができる。
打撃理論について多くの引き出しを持つ山川。その時々で自身のコンディションや相手投手、さらに球場までをも考慮し、多数の選択肢の中から最善のものを見つけ出して打席に入る。理論家の一面を持つ山川から見た柳田はどうか。「あの人は引き出しがないんですよ。バッティングフォームも綺麗だとは言えないじゃないですか。それなのに打つからすごいんですよ。だから一番好きなんですよ」と、尊敬の思いを口にする。
西武時代は“敵”として見てきた柳田の存在。「松田(宣浩)さん、ギータさん、内川(聖一)さんがいたので。うまい人の周りには人が集まりますし、やっぱり強いチームだと思っていました」。移籍して、改めて抱いたのが「ホークスはギーさんのチーム」という感情だった。
山川にとっても、「哲学」を貫いたシーズンだった。「僕、“もしもの話”とかが好きなんですよね。僕がもし監督だったらどうするか、とか」。今季は34本塁打、99打点で打2冠に輝きながらも、年間を通して好不調の波があった。自身がもし監督だったら、山川穂高を4番から外す選択肢はあったのか——。そう尋ねると、即答で「それはないです」と首を横に振った。
9月21日の楽天戦、1点ビハインドで迎えた9回1死二塁の打席。相手投手は守護神の則本だったが、敬遠が申告された。「すごく熱く戦える投手の1人なので。こちら側の思い入れが強い投手。魂の球を僕はいつもフルスイングしていたので、そういう意味で対戦したかったんです」。まさに山川が求めるエンターテインメントを実現できる場面だったからこそ、対戦できなかった悔しさを滲ませた。
「僕のキャリアハイが47本です。ホームランってどれだけ追い求めても、それだけしか打てない。バリーボンズは73本ですよ。大谷だって54本じゃないですか。難しいからこそ奥が深いし、僕はそこに挑み続けていきたいんです」
主砲にとっては当然、本塁打に特別な思いがある。名だたる選手の本塁打数はインプットされていて、すぐに本数が口に出てくるほどだ。「ぶっちゃけ全打席ホームランを狙っていますよ!」。掲げる理想は果てしなく高い。それでもプロ野球選手である以上、その可能性をどこまでも追い求めていく。
柳田の離脱があっても、チームはペナントレースを独走した。不振にあえぐ時期はあったが、山川の存在なくして、この結果にはたどり着けなかっただろう。シーズン当初は、柳田オリジナルの「どすこい」ポーズが多くの話題を集めた。来季も幾度となく2人の“エンターテインメント”を見せてほしい。
(竹村岳 / Gaku Takemura 飯田航平 / Kohei Iida)