前田悠伍に掴まれた心…6失点KOの“1時間後” 目を見て話す19歳を「見たことない」

ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

異例の長さだった降板コメント…「2軍では経験できないことが経験できた」

 19歳とは思えない実直さが、コメントからも溢れ出ていた。1度しかないプロ初登板。“KO”の舞台裏が、明かされた。

 ソフトバンクの前田悠伍投手が1日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)に先発して、3回6失点に終わった。大阪桐蔭高からドラフト1位で入団し、待望のプロ初登板となった。初回は6球で終えたものの、2回には5安打を浴びて4失点。3回にも2ランを許し、6失点でKOとなった。56球で、8安打。まさに「プロの洗礼」を浴びる形となってしまった。

 先発投手は、ほとんどの場合で「降板コメント」が球団広報を通じて配信される。試合を作れなかった時、「申し訳ないです」や「悔しいです」といった一言で終わることも珍しくない。初登板という特別な舞台ではあったが、前田悠の実直さが、降板コメントからも溢れていた。“異例”とも言える長文でのコメントを残したからだ。

「緊張はしませんでした。2軍では打ち取れていたコースでも、1軍のバッターには打たれてしまったし、追い込んだ後もうまく対応されてしまった。スピードはもちろんですが、打ち取れるコースに投げるコントロールをつけていかないといけないと感じました。打たれてしまいましたが、2軍では経験できないことを経験できたと思います。次は良い投球ができるようにレベルアップしていきたいです」

 コメントをもらったのは、柳瀬明宏打撃投手兼広報。降板後の左腕は、どんな様子だったのか。しっかり話すのは「初めて」で、もう心を掴まれてしまった。

「降板して、ちょっと肩のストレッチとかトレーニングをしていたので、そのタイミングで行きました。一応、全部のケアが終わってから話は聞きました。最初は(話し方が)硬かったので、『緊張した?』っていうところから入って、『緊張はしていなかったんですけど』って言いながら。やっぱり、しっかりしているなと思いました。初登板であれだけ打たれても前を見て、自分を持っている感じはしました」

 ファームでの登板では、基本的に降板コメントを選手からもらうことはない。最初に柳瀬広報から前田悠に説明をして、1つ1つ、丁寧に話を聞かせてもらった。「最初は『うーん』って感じだったんですけど、話し始めると19歳っぽくない気がしましたね」。投手なら、打たれた後はどんな時も感情が溢れてしまうもの。降板してから「1時間経っていないくらい」ではあったものの、19歳の左腕は3回6失点という結果を冷静に受け止めていた。

「考え出すと、もうスラスラと言葉が出てきている感じでした。投げ終わった後に『こうだったな』っていう反省は、もう自分の中でしていたと思います。打たれてパニックになっているような感じはなかったですね」

 話す姿もしっかりと背筋を伸ばし、柳瀬広報の目を真っすぐに見つめていた。今までファームで過ごしていた前田悠と、1軍に帯同するスタッフの1人。接点は多くなかったが「すごく悔しかったんだと思うんですけど、それを感じさせませんでした」と言う。現役時代は、通算で218試合に登板。12年間のプロ人生で多くの野球選手を見てきたが、これほどまでに19歳の“しっかり者”は「見たことないですね」とキッパリ言い切った。あまりにも理路整然とした口調に、ほぼ初対面で、前田悠に“心”を掴まれた。

「これまでの新聞だとか、映像とかでしか(前田悠を)見たことはなかったです。近くにいる選手からも『しっかりしている』というのは聞いたことがありましたけど、実際に少し接して見て、すごい19歳だとは思いました。なんというか、もっと話してみたいなと思わせるというか。今どんなことを考えていて、今後どうなっていきたいんだろうっていう興味が出てきましたし、そんな魅力は感じました」

 ゲームセットの後、前田悠は広報に連れられて報道陣に対応した。3分ほどの囲み取材ではあった中で「2軍ではいい感じに打ち損じてくれていたんですけど、1軍になると甘い球を逃してくれない。それは今日投げないとわからなかったことなので、いい経験になったかなと思います」。自分の現状と、結果を冷静に受け止めていた。3回6失点という悔しい内容だったが、黒星もつかなかった。いつかはヒーローインタビューに立ち、自分の言葉をファンの方々に届けたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)