近藤が選んだ今季のベストプレー 「ぱっと思い浮かぶのは…」
今年は月イチでお届けしてきた「連載・近藤健介」。4年ぶりのリーグ優勝を記念し、今回は“特別版”として3回にわたってお送りします。初回は近藤健介外野手が挙げた今季最も印象に残ったプレー。“一野球人”として心を震わされた瞬間を興奮気味に明かしてくれました。
「個人よりもチームのリーグ優勝、日本一。そこを目指してやっていきたい」。近藤がそう口にしたのは2022年12月14日、ホークスへの入団会見の壇上だった。2年の時を経て、念願はついに叶った。右足首の負傷で歓喜の瞬間をプレーヤーとして迎えることはできなかったが、優勝の立役者であることに異論をはさむファンはいないだろう。
優勝が決まった23日のオリックス戦。松葉づえ姿でチームメートの輪に加わった。「みんなと喜びを分かちあえて、うれしく思っています」。ビールかけでは満面の笑みでチームメートとともに喜びを分かち合った。日本ハム時代の2012年、2016年以来、3度目のリーグ優勝。2年前、覚悟とともにホークスへ加わっただけに、嬉しさは格別だった。
今季1番印象的だったプレーを問われた近藤は、よどみなく答えた。「パッと言われて思い浮かぶのは、ギーさんのサヨナラ3ランですかね。なんか、もう、すごいなっていう感じでしたね」。挙げたのは4月29日の西武戦(みずほPayPayドーム)で柳田悠岐外野手が放った劇的すぎるアーチだった。
2点ビハインドの9回2死一、二塁。敗色濃厚の場面で主砲の一振りがすべてをひっくり返した。作り話かと感じさせるほどのシチュエーションに、打った本人も「奇跡です」と口にするほど。さらに3試合連続サヨナラ勝ちという豪華すぎる“おまけつき”の一発だった。
普段は自らの考えを理路整然と口にする近藤が「なんか、もう、すごいな」と表現するほどの衝撃だった。「完全な負け試合を一振りで決めたっていうのもありますし、やっぱりスター性というか……。あそこで決められるすごさっていうのを感じましたよね」。今季、ファンを何度も沸かせてきた自らのプレーではなく、柳田のアーチを選んだ近藤の目は、思わず野球少年に戻ったかのような輝きだった。球界屈指の打者を魅了する力が、柳田にはある。
ホークスを「ギーさんのチーム」とはっきり口にしたのは山川穂高内野手だった。近藤にとっても柳田の存在は特別だ。「FA移籍を決断をする中で頭の中にあったのはギーさんの存在でした。やっぱり球界ナンバーワンだと思っていましたし、その選手を間近で見て、感じるものはたくさんあるだろうなと」。
柳田が長期離脱した際には、こうも語っていた。「チームの大黒柱がいない中で、僕が『(移籍して)まだ2年目ですし……』っていうのも、もうなんか言っていられないなと思います。しっかり数字を残して、チームが勝てるようやらなきゃいけない。ギーさんがいた時はどこか甘えてた部分もあったなと、振り返ってみると思いましたね」。決意を新たにしたことも、近藤のハイパフォーマンスにつながった。
近藤が柳田のサヨナラ3ランを挙げた理由は、強烈なインパクトだけではなかった。「個人的には優勝をするための大きなターニングポイントになった1試合だったと思います」。そう語ったのには理由があった。
「3試合連続サヨナラなので。ああいう試合をものにできるっていう強さはやっぱり感じました。9月に入って中継ぎ陣が苦しくなってきた中でも、幸い貯金があったので。そういう状況を迎えられたのも、前半戦をみんなで頑張ってきたことによる貯金が残っていたから。本当に大事な試合だったかなと思います」。
チームはこの勝利で6連勝をマーク。次戦も勝利し、今季最長の7連勝へとつながった。スーパースターの一振りが照らした「Vロード」。近藤の心に深く刻まれたのは必然だった。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)