打率.083、監督の苦言…野村勇に芽生えた“欲” 受け止めていたスタメン起用の意味

ソフトバンク・野村勇【写真:栗木一考】
ソフトバンク・野村勇【写真:栗木一考】

指揮官が懸念していた…「欲のない子ですね」

 首脳陣の起用に応える2安打1盗塁の活躍にも、延長12回に送られた代打の「意味」をしっかりと受け止めた。3-0で勝利し、優勝マジックを「7」に減らした15日のオリックス戦(京セラドーム)。「2番・二塁」でスタメン起用されたのが、野村勇内野手だった。

 相手先発は左腕の宮城。通算18打数2安打ではあったが、2022年には本塁打を記録している。その起用に応えるように、初回1死から左前打で出塁。延長10回2死では、ペルドモから中前打を放つと、3度の牽制球をもらうも、二盗を決め、チャンスを広げた。結果は5打数2安打1盗塁と、緊迫した投手戦の中で確かな存在感を発揮した。

 試合前は打率.083だった。最後に安打を放ったのは6月30日の日本ハム戦(エスコンフィールド)。スタメン出場は、8月31日のロッテ戦(ZOZOマリン)以来のことだった。与えられたスタメンのチャンスを、野村はどのように掴もうとしていたのか。

「本当に全然打っていないので、なんとか1本出したいなと思いながら。なんとか打てるように練習しているので、(安打が)出せるように、という思いでいきました」

 8月11日の楽天戦(みずほPayPayドーム)で、野村は8回に代走で出場した。この時に試みた二盗は、1度はアウトと判定された。ベンチに戻ろうとしていたところ、本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチがリクエストを要求し、判定が覆ったことがあった。この時に小久保裕紀監督は、野村の“姿勢”について語っていた。

「本多コーチがリクエスト(をアピール)したんで。(ベンチに)帰ってきたら普通ダメなんですけど。本多コーチがやれっていってやったらセーフになりました。欲のない子ですね。それが多分あの能力があって、伸び悩みにつながっている部分ではあると思うので。僕はそういうところは結構大事かなと思うんで。やっぱり何が何でもセーフだっていう生き方と、あっさりっていうのとでは、自分の野球人生に関わってくるんじゃないかな。意外に大事なところだと思っています」

 指揮官からの真っすぐな苦言。野村自身もこの言葉は今でも胸に残っており、その意味を受け止めるしかなかった。

 延長10回では、2死一塁の緊迫した場面で二盗を成功させた。1ストライクのカウントから、3連続で牽制球が投じられたが、「(牽制が)3つきたので、4回目はないかなって。あとは足を上げていたので、行けるかなっていうので走りました」と、冷静な判断で二塁を陥れた。

 それでも、12回の1死一、二塁のチャンスで巡ってきた打席に立つことは叶わなかった。野村の代わりに、代打・中村晃外野手が送られた。

 結果以上に、大事な場面で打席に立つことができなかったことが何よりも悔しかった。「(チャンスの場面で)行かせてもらえるような選手、結果を出していきたいなと思っています」。チームの勝利と、自身の活躍があっても、言葉は多くない。それでも野村の表情からは確かな“貪欲さ”が滲み出ていた。

(飯田航平 / Kohei Iida)