本多コーチ代役抜擢の意外な理由 ベンチとの“絶妙な相性”…呼吸合わせた「60試合」

三塁ランナーコーチ代役を任されたソフトバンク・本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチ【写真:竹村岳】
三塁ランナーコーチ代役を任されたソフトバンク・本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチ【写真:竹村岳】

井出竜也コーチが体調不良…“代役”本多コーチが繰り返した「強い意思」

 ソフトバンクは27日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)に3-1で勝利した。いつもと違う光景だったのは、一塁と三塁のコーチャーズボックス。普段は三塁ランナーコーチを務める井出竜也外野守備走塁兼作戦コーチが体調不良を訴え、“代役”を任されたのが本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチだった。首脳陣の中でも、本多コーチが抜擢された舞台裏とは? 試合後に何度も口にしたのは「強い意志」の重要性だった。

 井出コーチは今季から1軍の外野守備を担当し、攻撃面でも三塁ランナーコーチを務めてきたが、直近5試合で3度の本塁憤死があった。20日の楽天戦(楽天モバイルパーク)では初回2死一塁で山川穂高内野手が放った打球が左翼線を破り、一塁走者の今宮健太内野手が本塁を狙った。結果はアウトとなり、打線は8安打を記録しながらも無得点で敗れた。小久保裕紀監督は試合後、「責任を持ってあのポジションを任せている。(山川の次打者が)近藤(健介外野手)という日本でもトップのバッターがいるという点ではもったいないなとは思いました」と言及していた。

 翌21日の同戦、そして25日の日本ハム戦(エスコンフィールド)でも本塁突入が失敗に終わる同様のケースが起きていた。代役を務めることになった本多コーチは、どんな思いで三塁のコーチャーズボックスに立ったのか。

「いつも(奈良原)ヘッドコーチとコミュニケーションは取っています。三塁コーチの難しさはありますけど、こうなった限りはいつも通りの精神で入ろうと思いました。2軍の時にもやっていたことを思い出しましたね」

 小久保監督は昨季まで1軍で三塁ランナーコーチを務めていた村松有人打撃コーチではなく、本多コーチを抜擢。その理由を奈良原コーチが説明した。「ファームで(小久保裕紀)監督も一緒にやっていたので。僕が聞いたのは、60試合くらいサードコーチャーをしたと聞きました。村松コーチ(の管轄)はバッティングですし、監督とランナーコーチャーとしての直接的なやり取りっていうのはやっていないじゃないですか。それが一番大きいです」と明かす。小久保監督とランナーコーチとして接した経験があるか。そこが判断基準となった。

「本多コーチは去年2軍で(三塁ランナーコーチとして)60試合ほどの経験があって、実際に(小久保監督が指揮を執る)ベンチと、やり取りをしているというのが大きいかなと。タイミングだったりも微妙に違うものなんですよね。それって阿吽の呼吸じゃないけど、サインを見るタイミングと出すタイミングって一緒にやっていた方がわかる。この人はこのタイミングね、っていう。その間合いみたいなものがあるんです。逆に見た時にもう(サインが)始まっちゃってるとか。そうなるとこっちもバタつきますから」

 主に中日時代、三塁コーチャーズボックスに入ってチームのために腕を大きく回し、時には走者をストップさせてきた奈良原ヘッド。経験が豊富だからこそ、瞬時の判断には「難しさもありますし、経験値もすごく大事になってきます」と強調する。「僕は1軍でも2軍でもサードコーチャーをしたことがありますけど、ちょっと違う部分もあります。2軍の場合は教育的に、という面もある。1軍は違う視点が必要ですし、意図するところがちょっと変わる時はありました」。どれだけ大切なポジションなのかは当然、骨身に染みている。

 この日はみずほPayPayドームでの試合だったが、屋外球場であれば風向きや日差しも影響する。外野手のスローイングや点差、流れなど細かい状況を全て踏まえて、瞬時に判断を下さなければならない。本多コーチも「井出コーチもご自身の考えのもとでやられていますし、とてつもなく(展開が)左右される場所だとはみんなが認識しています」と語る。だからこそ必要なのは「強い意思」だと何度も繰り返した。

「逃げることはできない。チームの勝利を左右するからこそ、強い意思を持ってやらないといけない。改めて井出コーチも、奈良原ヘッドも、日頃やられている難しさを痛感しました。2通りだけじゃなく、4つも5つも、いろんなことを考えないといけないですから。ネクストや、その次、代打が出るタイミング……。いろんなことを思い描いた中で打球判断をしないといけない。チームが勝つために監督の思いを一番として、サードコーチャーは動かしていくことが大事だと思います」

 試合後、チームは長崎に移動した。小久保監督は「明日はこの体制で行くことになると思います」と言い、現状で代わりのコーチを呼ぶことは「考えていないです」とした。井出コーチが背負った重圧を、みんなで分かち合う。優勝というゴールテープを、必ず全員で切るために。

(竹村岳 / Gaku Takemura)