慶大2人の“セット案”も…お立ち台は柳町1人 西田広報が明かす舞台裏と、正木とのやり取り

ソフトバンク・正木智也(左)と柳町達【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・正木智也(左)と柳町達【写真:荒川祐史】

小久保監督も「今日ノーヒットの慶応2人だったんですけど決めてくれました」

 なぜ、1人だけがお立ち台に選ばれたのか。広報としての冷静な視点があった。ソフトバンクは4日、日本ハム戦(みずほPayPayドーム)に3-2でサヨナラ勝利した。1点を追う9回無死満塁から正木智也外野手が同点の右犠飛、続く柳町達外野手が中前に抜けていく一打で試合を決めた。慶大出身の2人が勝利に貢献したが、ヒーローインタビューは柳町1人だった。その理由を、西田哲朗広報が語る。

 ロースコアのまま、試合は終盤へ。7回に先発の大関友久投手が2点を失って、逆転された。9回に栗原陵矢内野手、山川穂高内野手の連打でチャンスを作ると、近藤健介外野手は申告敬遠。無死満塁から、正木が右犠飛を放って試合を振り出しに戻した。柳町は「正木がいいバッティングをしてくれたので、本当に感謝です」と、同点となった状況で打席へ。お手本のようなセンター返しで、一瞬でヒーローになってみせた。

 小久保裕紀監督の口からも「今日ノーヒットの慶応2人だったんですけども、しっかり決めてくれましたね」と「慶応」のワードが出るほど、美しいシナリオで最後は勝利した。慶大時代からのチームメート、柳町と正木が並び立つ姿を見たかったファンも多いはずだが、結果的には柳町が選ばれた。舞台裏を西田広報が明かす。

「僕1人の意見では正木とセットで行こうかなとも思ったんですけど、サヨナラの時はサヨナラを打った人を一番立ててあげたいのもありました。達もサヨナラ打は初めてでしたし。『慶大コンビで』っていうのもあったんですけど、決めたのは達だったので、周りの意見も聞きながら、最終的には1人かなと判断しました」

 柳町と正木だからこそ“セット”で見たいというファン心理は、広報としても理解していた。その上で、西田広報が強調したのは、最後に試合を決めた柳町へのリスペクト。ファンの注目度を、柳町1人に集めてあげたい思いがあった。正木についても、結果を振り返れば3打数無安打1打点。その1打点が値千金とはいえ「しゃべりにくいところもあるかなと思った」と、気遣いもそこにはあったのだ。

 試合後、正木本人ともやり取りはした。「終わってから正木に聞いたんです。『ヒーロー行きたかった?』って聞くと『行きたかったです』と」とその中身を明かす。広報なりの事情も、説明し「こっちも出そうかなって思ったんですけどね。今日はもう柳町でドンって行って“柳町の日”にしたいというのがありました」。正木にも納得してもらい、2人で立つ目標は持ち越しとさせてもらったそうだ。

 廣瀬隆太内野手も含めて“慶大3兄弟”に対するファンからの注目度は高い。もちろん3人それぞれが活躍していることがベストだが、同じ大学出身の選手たちが、ここまで人気を集めている。広報としては、どんな視点で見守っているのか。わかりやすい出来事があった。

「うちには『月刊ホークス』っていう雑誌があるんですけど、今の8月号の表紙が慶大の3人なんです。最初は選手1人で行こうと思っていたんですけど、撮影自体はもっと前だったので『このタイミングで表紙に行かないといつ行くねん』って話になりました。オファーがありましたし『特集をやりたい』とも。周東(佑京)、栗原(陵矢)のスケジュール的にも難しいところがあったりもして『ここは慶応の3人や』って思って『3兄弟が今いるので、どうですか』とアプローチをしました」

 確固たるレギュラー選手ならまだしも、まだまだ売り出し中の選手を表紙で扱ってもらうのは広報としても重圧だったという。「彼らも自覚を持って、その分結果を残してもらわないといけない。(こちらから推薦したからには)プレッシャーもかかりますよ。その表紙はまだ正木が定着していない時に撮りましたから」と胸中を語る。「廣瀬も落ちてはしまいましたけど、十分インパクトはありました。3人が表紙になったことは、反響も大きかったですよ」と西田広報だけが知る舞台裏だ。

 この日のお立ち台。インタビュアーからも、柳町に対して「正木選手が同点の犠牲フライ、そして柳町選手が試合を決めました。慶応コンビで決めたという点に関してはどうでしょうか」という質問が飛んだ。正木の貢献度も十分に理解しているからこその質問。西田広報も「達も“長男”じゃないですか。ああやってメディアの方も(正木の名前も)出してくれるので、必然的に慶大の長男が代表してお立ち台に行ったというので、それもいいのかな」と、深々と頭を下げていた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)