小久保監督が“撤廃”した試合前の声出し 理由と舞台裏…“最終決定”を託された選手とは

ソフトバンクのベンチ前の様子【写真:竹村岳】
ソフトバンクのベンチ前の様子【写真:竹村岳】

小久保裕紀監督への単独インタビュー…声出しに感じていた方向性のズレ

 今季から明確に表れたチームの変化は、まさに指揮官なりの“美しさ”だった。小久保裕紀監督が、鷹フルの単独インタビューに応じた。明かしたのは、試合前の声出しをなくした理由。「去年からすごく気になっていた」という点が、きっかけとなった。今宮健太内野手が明かす、小久保監督との具体的なやり取りとは? 「それならやらなくてもいい」と思った明確な理由があった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 昨年までなら、試合前のシートノックを終えると、自然とベンチ前に輪ができる。守備コーチ、打撃コーチから指示が出された後、“指名役”が声出しを務める選手を決めていた。しかし、今年はシートノックの後は“流れ解散”のように選手はベンチの奥に消えていく。なぜ今年から試合前の声出しはなくなったのか。小久保監督は「今していないんだっけ?」と切り出すと、明確な理由を語った。

「俺『いらんのちゃう?』って言ったんです。でもやっているものやと思っていました。こないだ、ファームで盛り上がっていましたよね。それはね、提案というか、主力にちょっと話をしたんです。あなた方(メディア)向けに出しているものじゃないですか。目的が違う方向になってきていたのは、去年からすごく気になっていたので」

 昨年10月に、2軍監督から昇格する形で監督に就任した。シーズンが始まるまでは浮き彫りにならなかったが、昨秋の時点から指揮官は声出しをなくすという考えを示していたという。勝つために考えを共有する場ならまだしも、方向性がズレてきていることには違和感を覚えていた。勝利こそが最大のファンサービス。今年2月の春季キャンプ、誰よりもサインを書いていた小久保監督が言うから説得力がある。

「(去年で言えば)キャプテンの柳田が143試合、責任を持って声出しをするのならわかりますけど。僕はキャプテンの時は、声出しの場で伝えたいこともあったし、チームが同じ方向を向くっていうのは大事なことなんですけど。そうじゃないのなら『1軍ならいらないよな』って思っただけです」

ソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:飯田航平】
ソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:飯田航平】

 昨年までなら、コーチ陣も試合に関する共有事項は、声出しのタイミングで伝えていた。今季のスタンスについて小久保監督は「シートノックを見届けたら、もう首脳陣は全員下がる。あとは自由にして、試合に備えなさいと。その前には必ず野手は中で集まる。そこでコーチは伝えています。ホームでもビジターでも、コーチに『シートノックが終わった後に伝えるのはやめなさい』『シートノックの前にしなさい』っていうのは僕の指示です」と明かす。

 声出しをなくす方針について、やり取りをしたという主力選手は今宮健太内野手と周東佑京内野手。指揮官は「やりたかったらやってもいいで」と話したそうだが、今宮は「あの中でコーチとのミーティングがあったのでそれを前倒しにして、来た時からミーティングをして、やるのならやってもいいし、その間にコーチは入ってこないという話だったので」と明かす。そして最終決定は、今の選手会長である周東に託したそうだ。

「今年は佑京が選手会長で、最後は結局佑京に託しましたけど、声出しというところでエンターテイナーじゃないですけど、そんな感覚になっていたので、それならやらなくてもいいのかなと思いましたし。そういうところで、最終的には佑京が決めていました。大事なところとか、佑京であったりいろんな選手が発したら(選手は)集まるでしょうし、声かけを必要な時もあると思うので、そういうことが出てくるとは思います」

ソフトバンク・今宮健太(左)と周東佑京【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・今宮健太(左)と周東佑京【写真:荒川祐史】

 3月29日、オリックスとの開幕戦。京セラドームに到着すると、選手もスタッフも全員を三塁ブルペンに集めて、小久保監督が自ら訓示した。「今年1年、どうか自分のプロフェッショナルという定義からはみ出すことなく、チームの1つの目標に向かって、各々が誇りとプライドを持って取り組んでいきましょう」。声出しと呼べるような瞬間は、今のところはこの日だけ。試合までの時間を、選手それぞれが自覚を持ちながら過ごしている。

 就任会見では「美しさ」という言葉で、プロ野球選手としてのあり方を訴えた。声出しをなくすなど1つ1つの言葉、行動に意味を持たせるところも小久保監督らしい。昨季まで務めていた2軍監督と、今季から就任した1軍の監督。指揮官の中では、どんな意識の変化があったのか。

「やっぱり育成抜きに組織は半永久的な強さはないですよね。人を育てない限りは。当然、今出ているレギュラーを脅かすような若手が出てこない限りは。世代交代は進まないでしょうし、もちろん勝つためにするんですけど、そういう世代交代というか、今の出ているレギュラー陣を脅かす選手は誰かなという目はずっと持っていますね」

「それがないとなかなか、僕が1年やって終わりますっていう無責任なことはできない。次の監督にバトンを渡すためにも、いいチームをしっかりと。孫さん(正義オーナー)が掲げている『目指せ世界一』っていうことに対して、そのシーズンも勝たないといけないんですけど、長く勝ち続けるためにはいい選手を、新しい選手を作っていかないといけないという視点は持っています」

 育てるとは技術的な向上はもちろん、人として、プロ野球選手として成長してほしいという願いも込められていた。「勝利の女神は細部に宿る」。この言葉を信条とする小久保監督のチーム作り。まさに細部にこそ注目して、ホークスの歩みを見ていてほしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)2024.04.26